母親が亡くなった正木さん(仮名)は、父親が認知症、弟が海外在住と、諸々の手続きを1人で進めなければならない状況です。相続に関して遺産はわずかだろうと高を括っていた正木さんでしたが、母が遺した複数の通帳には想像以上の遺産が……のぞみ総合事務所代表司法書士の岡信太郎氏が、実際のエピソードをもとに「無対策」で相続が発生した際の辛すぎる現実を紹介します。

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立ちはだかる多くの壁…進められぬ相続手続き

窓口で通帳を提出し、母親が亡くなった旨を伝えました。すると、「死亡のお届けですね。受付をさせて頂きます」と言われ、しばらく待っていると窓口に呼ばれ「死亡の届出は完了しました。通帳は一旦お返し致します」と通帳を戻されました。

 

正木さんは、〝なんだ、もう手続きができたのか〞と思い、「それで、母親の預金は、どこに入るのですか? 私か父に移したいのですが?」と尋ねました。すると、「それでは、相続関係の書類をお渡しします。こちらをご参照ください」と、担当者から相続に関する書類を渡されました。

 

その書類を見てみると、相続人全員の署名と印鑑証明書が必要と記載されています。自分の家族の場合、それは無理だと思い、「実は父は入院しており署名が難しい……」と事情を話し始めた矢先、「詳しくはお渡しした案内に載っているセンターにお問い合わせください」と話を遮られてしまいました。父親のことなどまったく相談に乗ってもらえる雰囲気ではありません。

 

すぐに手続きができると考えていた正木さんは疲れ果てて、母親の通帳と銀行から渡された書類を持ち帰りました。書類を読み返したところ、正木さんには2つ疑問が湧きました。

 

まず1つ目は、父親の署名はどうしたらよいのか? ということです。本人は署名することすら難しい状態です。父親が認知症の場合、どうしたら手続きができるか確認する必要があります。

 

2つ目は、弟の印鑑証明書はどうしたらよいのか? ということです。相続人が海外にいる場合でも、印鑑証明書が必要なのでしょうか。弟にどう伝えたらよいのか、戸惑ってしまいます。

 

分からないなりにインターネットで調べてみると、〝遺産分割で相続人が認知症の場合は、成年後見人……〞などと載っています。成年後見とはどういったものなのか、初めてのことばかりです。弟にも色々と確認してみないといけません。

 

東京に戻らなければならないタイムリミットが迫ります。1つも手続きを進められなかったことに正木さんは焦りともどかしさを覚えました。何かいい方法がないか調べれば調べるほど、堂々巡りに陥ってしまいます。

 

 

岡 信太郎

司法書士のぞみ総合事務所

代表司法書士

 

※登場人物は全て架空の人物であり、守秘義務に反しないようにストーリーを展開しています。

 

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本記事は、岡信太郎氏の著書『財産消滅~老後の過酷な現実と財産を守る10の対策~』(ポプラ社)から一部を抜粋し、再編集したものです。

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

財産消滅 老後の過酷な現実と財産を守る10の対策

岡 信太郎

ポプラ社

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