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地域を巻き込み、1000人の在宅患者を支援
●スタッフの働きやすさを重要視する
経営理念を実現するためには人的資源が重要であり、働くスタッフの環境を考え仕組みをつくることが不可欠である。医療機関の多くは女性スタッフの比率が高い。わかさクリニックも女性は76.5%と約4分の3を占める。女性が働きやすい環境を整えるため、自由度の高い勤務時間の設定、有給休暇を取りやすい職場の雰囲気づくり、院内保育園の設置をはじめ昼食の提供など、工夫がなされている。
出産後の復職支援にも力をいれており、環境づくりの重要性が示されている。従業員が勤務において精神的に満足していなければ、患者に対して気配りや配慮はできなくなる。患者の満足を向上させるためには、従業員の満足を考えて、誰にとりどのように働きやすい環境なのか、具体的に考えることが重要である。
(2)集患効率を上げるポイント
集患戦略は、まちづくりを考えて高齢者の居場所をつくる「コミュニティ戦略」により、高齢者の孤立を防ぎ治療に繋いでおり、患者からの信頼を獲得している。
■地域を巻き込み、高齢者をフォローする
高齢者を支える地域のまちづくりを考えて、様々な仕組みが考えられている。オレンジタウンを活用し、まちで生活するすべての人々に開かれたコミュニティスペースを充実させ、患者の近くにある、いつでも相談できる、敷居の低いクリニックを実現させている。
診療所の運営、1,000人の在宅患者の支援、地域を巻き込みながらのイベント実施など、オペレーションには多くのエネルギーを費やす。しかし、これらが好循環し評判を呼び、認知度をあげ紹介を増やし、患者の信頼を獲得することにつながっている。
■徹底して患者の利便性を高める
外来診療では患者を無料で送迎し、昼休み時間を設けずクリニックを開け診療を行う。診療では、診療所ながら大学病院を含めた多くの医師を招集し、専門的な医療を提供する。診療科がわからなければ、総合診療科で診察を受け、何か不安があった場合も気軽に相談できる。
もし、診療所に通院するのが難しくなった場合は、在宅医療で患者を支援する。在宅医療は、365日24時間対応する。この在宅医療を支えるために、在宅医療課では、在宅に関わる全スタッフが毎朝オペレーションルームで情報共有を行い、患者やその家族のケアを理解する。これらは患者の利便性を高め、満足を向上させることにつながり、他の医療機関へのスイッチングを防ぐことになる。
(3)おわりに
最新で高度なシステムにより、わかさクリニックの在宅医療は成り立っている。そのシステムも指令室もオレンジタウンもすべては経営戦略を実現するための道具である。道具を上手く効果的に使うことは重要である。しかし、この在宅医療は、患者とその家族、地域とスタッフのつながりで成り立っている。これこそが経営戦略の根源にある、わかさクリニックの理念である。それぞれがつながる中で地域を支え、患者を支えている。
人は他者からの承認がなければ頑張りが利かない。これは患者もスタッフも同様である。自分を理解し、自分の環境も理解し、自分の居場所をつくってくれる職場は何より貴重である。
冒頭で、指令室は企業のオペレーションルームのようだと伝えたが、これは無機質な感じではない。部屋に入ると、目の前にはベビーベッドが置かれ、ベッドの上にはぬいぐるみが吊るされている。今度、出産で休職していたスタッフが復帰してくるのにあたり用意をしたそうだ。多くのスタッフがモニターに向かい、患者やその家族と真剣に向き合っている横で、乳児が穏やかに過ごす姿を想像すると、柔軟な組織の在り方が見えてくる。
杉本ゆかり
跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長