(※写真はイメージです/PIXTA)

会員4万人余りにすぎない中小企業家同友会の組織が、一致団結し、多くの国民の理解を得て、巻き込んでいけば、国政をも動かせることを各会員が経験しました。小さな運動が目に見える成果を出したことで、会員の士気は上がり、組織への参加意欲は向上します。清丸惠三郎氏が著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)でレポートします。

もう一つの「金融アセスメント法案」制定運動

愛知同友会では若手経営者たちが早くに金融アセスメント法案に注目、動き出していたのだが、全体として堅実な経営風土のために企業の金融機関からの借り入れが少なく、一方で金融機関に目を付けられると後々困るなどという忖度もあり、当初は動きが鈍く「なかなか火がつかなかった」ようだ。だが鋤柄氏らの熱心な働きかけが功を奏し、やがて燎原の火のように愛知同友会内に署名運動は広まっていき、最終的には13万人、全都道府県中トップの署名者数を集めるに至る。

 

福岡、愛知という有力同友会での賛同の動きを背景に、中村氏は鋤柄氏らとともに当時の赤石義博会長(故人)など中同協三役と面談、金融アセスメント法案制定に向けての署名運動を同友会挙げての運動にするよう要請し、賛同を得た。同時に全国の同友会に協力を求めて説明に走り回った。署名については経営者以外も広く対象にされた。『中同協50年史』(草稿第7章第3節)はそれに続く動きを、以下のように記す。

 

「2000年1月に中同協は、『金融システム検討会議』(代表・河野先幹事長)を設置、第三二回定時総会(兵庫)で金融アセスメント法制定運動を提起しました。(中略)同(2004)年7月の第三三回定時総会(北海道)では、金融アセスメント法制定をめざす全国署名運動を本格的にスタートさせました。2002年3月には第一次国会請願(70万名分署名)、2003年3月には第二次国会請願(100万名分署名)を行い、大きな反響を呼びました」

 

大きな反響というのは、九州のブロック紙西日本新聞や朝日新聞など有力メディアが「中小企業の経営者が運動を起こした」等と書き立てたことも一つだが、それ以上に政府が100万名の署名という重い数字にようやく重い腰を上げ動き出したことがあげられる。

 

もっとも政府が動き出す前段に、中村氏たちのもう一つ別の動きがあった。

 

「あるところから、国会や政府を動かすには、地方議会から意見書を出すとよいという話を聞き、金融アセスメント法案の必要性を地方議会で論議し、その決議を国に上げてもらおうということになり、その運動を合わせて始めたのです」(中村氏)

 

同友会からの陳情書が全国の都道府県、市町村議会に次々に提出され、この結果、地方自治体のおよそ3割、925の地方議会から意見書が国会に提出されることになった(最終的には09年までには1009議会で採択)。

 

こうした動きの中で、2003年3月に「リレーションシップ・バンキング(略称リレバン)の機能強化に関するアクションプログラム」が、金融庁から出される。当時は小泉純一郎内閣で、内閣府特命担当大臣は竹中平蔵氏であった。リレバンは「金融再生プログラム」と対をなすもので、地域金融機関を対象としており、経営健全化のために無理に不良債権処理を進めると地域経済に悪影響を及ぼすので、金融機関は中小企業と綿密に情報交換を行うべきだというのが、主旨だった。

 

内容はこのほか多岐にわたるが、「金融機関はどのように地域貢献しているか公開すべき」など、同友会が推進してきた金融アセスメント法案の骨子がかなり取り入れられていた。事実、竹中大臣も、国会答弁の中で「国民の皆様の声(中略)を実感したうえで、今回の問題に取り組ませていただいた」と発言している。

 

同友会の金融アセスメント法案制定に向けての働きかけは、もう一つの「融資に際しての第三者保証や物的担保の差し入れ、経営者の個人保証など歪んだ取引慣行を見直せ」という点に関しても成果を上げ始めた。まず第三者連帯保証原則が禁止になり、さらに13年になるとある条件の下では金融機関は経営者保証を取らないとのガイドラインが、金融庁から発表されたのである。

 

つまり大きな反響のもう一つは、このように同友会挙げての金融アセスメント法案制定運動が、法制定にまで至らず、限定的ではあったが国の政策をも動かしたという事実であった。

 

この結果、会員4万人余りにすぎない同友会組織だが、一致団結し、多くの国民の理解を得、巻き込んでいけば、国政をも動かせるのだということを各会員が自覚したのである。運動が目に見える成果をもたらせば、会員の士気は上がり、組織への参加意欲は向上する。仲間獲得へのパワーの源となるのは当然である。それがまた同友会の次なる運動と組織拡大へとつながることになる。

 

07年、中村氏の盟友である鋤柄氏が、中同協幹事長を経て会長に就任する。ずばりと事の本質を指摘し、強力なリーダーシップで組織をけん引する経営者だというのが、氏を知る多くの人の鋤柄氏評である。スポーツマンらしくもあり、理系学部出身者らしくもある。

 

会長就任に際して、鋤柄氏はある決心をしていた。その著書『経営者を叱る』の一文を以下に引用する。「同友会全体が金融アセスメント法制定運動を通じて、『社会に働きかけることで、国の政策を変えることができる』ことを知った。これをさらに推し進めなければいけない」

 

次ページ中小企業を社会のなかにどう位置づけるか

※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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