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地域患者を巻き込む憩いの場所とは
わかさクリニックにかかってくる電話は、指令室である在宅医療課の隣室にあるコンタクトセンターで集中管理され、適切な対応部署に振り分けられる。鳴り響く1日のコール数は200件を超えており、多くは患者、その家族からの電話である。コンタクトセンターでは、電話を集中管理するために専門のオペレーターが配置されており、適切な相手につないで問題を早急に解決するなど、迅速で質の高いサービス提供を実現している。
在宅医療は往診とは異なる。往診は、急病や症状の急変の際、患者やその家族の求めに応じて医師が自宅へ訪問し診察をする。一方、在宅医療の場合は、計画的な医療管理のもとでスケジュールと診療方針が作成され、医師や看護師などが定期的に訪問して診療を行う。
まちの診療所がこれらを実現させるまでの道のりは、決して平坦なものではない。間嶋院長は思い描く新しい試みに挑むたびに、何がベストなのか時間を費やして取り組み、スタッフたちはそれを形にするために何をすべきか考える。常に、間嶋院長とスタッフが話し合い、行動し、最善の医療とサービスのあり方をひたすら追求している。
これらの実現には、患者だけではなく、地域を巻き込む取り組みと、このシステムを支えるスタッフをサポートする仕組みがなければ成り立たない。
■地域の患者を巻き込んだ取り組みとスタッフを支える仕組み
(1)地域の患者を巻き込む取り組み、憩いの場所「オレンジタウン」
「地域貢献・地域連携活動」では、医療の枠組みを超えて、患者が社会と繋がる場所が提供されている。コミュニティスペースである「オレンジタウン」では、地域交流の場として、様々な取り組みが行われている。
在宅医療部門の拠点は、クリニックの相向かいにある2階建ての建物「オレンジタウン」の2階にある。1階の入口右側には、おしゃれなカフェ&レストラン「オレンジテーブル」があり、テーブル席とカウンター席、テラス席が設置されている。奥に進むと、イベントルームがある。部屋はガラス張りのため、レストランからイベントルームの中が見え、ピンク、赤など色とりどりの椅子が温もりを感じさせる。
建物左側には、開放的な保育園が設置されている。レストランやイベントルームは地域交流の場として、わかさクリニックの患者をはじめ地域の方にも開放されており、職員の食事や休憩にも活用されている。保育園は働くスタッフ支援のためであり、2つの保育園が開設されている。これらはグループ企業のわかさコンサルティングが運営している。
高齢社会白書によると、高齢者の定義に関しては、75歳以上を高齢者の新たな定義とすることが提案されている(内閣府,2019)。
また、高齢社会対策大綱においても、「65歳以上を一律に「高齢者」と見る一般的な傾向は、現状に照らせばもはや現実的なものではなくなりつつある。」とされている。何歳からを高齢者と考えるかは別問題として、高齢化は確実に進んでいる。そして、ひとり暮らしや夫婦だけで暮らす高齢者は多い。高齢者は孤立してしまうケースが多くあり、孤独に悩む人が社会問題になっている。
例えば、東京23区内における独り暮らしで65歳以上の自宅での死亡者数は、3,127人に達している(内閣府,2017)。これは、地域の付き合いが希薄であることが原因とされている。社会との接点が減ることで、病気などで動けない事態に陥った場合、助けを求めることができないケースが多いという。
間嶋院長は、まちの方々が孤立することのないように、また、介護が必要な方と暮らすご家族が、頼りたい時に頼れる場所をつくりたい。つらい気持ちに誰かが気づいて手を差しのべることができる場所を提供したい。
そして、医療と介護とまち、この3つを緊密に連携させながら、まちの人々の健康と暮らしを守っていきたい。そんなまちづくりを踏まえた地域医療への思いから、在宅医療部門とオレンジタウンはつくられている。