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医療スタッフを支える勤務体制の仕組み
ここは、まちの一部として開放されており、健康講座に通うお年寄りや食事にきた子供連れの家族でにぎわっている。オレンジテーブルは、近所の方々がランチで立ち寄るだけではなく、お昼にはスタッフ用の食事が無料で用意されている。大きな窓から光が注ぐスペースは、医療スタッフと一般の方々が距離を縮める場所でもある。
在宅医療の患者からは、「さみしいから来てほしい」と願う電話も頻繁にあるという。間嶋院長は、社会と繋がる場が求められていることを実感したことが、オレンジタウンをつくるきっかけの1つだと話す。
まずは、まちの人々にオレンジタウンに集まってもらうところからはじめている。オレンジカフェ(認知症カフェ)は、認知症の方をはじめ、一般の方々も利用できる。認知症患者のケアに必要なことは、第1に運動を行うこと、第2 に社会的な活動に参加することだと言われている。
認知症の方が増えるこの時代、このオレンジカフェは、症状の軽い方が外に出て人と触れ合う場所を提供している。イベントルームでは、健康講座をはじめ、がん患者のサロン「茶の花カフェ」が定期的に開催されている。茶の花カフェでは、がん患者やご家族が様々な疑問や思いなど、同じ体験をした仲間が心を通わせることができる場所である。イベントはそれだけではない、落語講演会や麻雀大会、スマホの使い方講座、プロレスも開催される。
オレンジタウンは地域のコミュニティとして、まちの人々が情報を収集する場である。イベントやカフェでの関わりをきっかけとして、ここに参加する方々が健康に不安を感じた時、まちの「かかりつけ医」としてサポートしたいとの思いが込められている。
これらの取り組みは、結果的にオレンジタウンの利用者がわかさクリニックに患者を紹介したり、利用者自身が病気を患った時に気軽にわかさクリニックを受診したりする、安心材料となっている。何よりも、オレンジタウンでの活動は強烈な広報ツールとなっている。
(2)スタッフを支える仕組み
365日無休、休まず診療を続け、多くの在宅患者を手厚く支援する体制を実現するためには間嶋院長の熱い思いだけでは難しく、スタッフへのフォローは不可欠である。医療にとり、技術や知識が重要であることは間違いない。
しかし、医療を提供するその人自身が持つ人間性によって、その技術や知識が効果を発揮するのか否かが決まる。わかさクリニックでは、ヒトの力が最も大切な医療機関において、職員が働きやすい環境を整えることも大切な役割であると考え、スタッフを支える仕組みを整えている。
例えば、働く女性を応援するため、自由度の高い勤務時間の設定や有給休暇消化率100%を目指す職場の雰囲気づくり、院内保育園の新規開設、職員休憩室の整備などが進められている。オレンジタウン内のレストランでは、毎日スタッフに昼食が支給されている。独身者はもとより、子育てをしながら自分の昼食を準備するのは難しい。これらを配慮しつつ、時間を有効に過ごせるようランチが提供されている。
また、保育園は2カ所設置されている。職員の子供は優先的に入園が可能である。職場から目と鼻の先にある保育園は、毎日の送り迎えも子供が熱を出してお迎えに行く時も、時間のロスが省かれ利便性は高い。
イベントスペースでは、定期的にスタッフ向けの勉強会が行われている。病院、有床診療所では、医療法施行規則(第11条の11)により、全職員に対して年2回の医療安全研修会を実施することが求められている。しかし、診療所の場合、特に規定はなく、マンパワーに限りがあることから、診療所独自で勉強会を行うことは珍しい。しかし、学ぶ機会を求める医療職は多い。
例として、医療系の学生は就職先を決める際、給与や勤務体制だけではなく、勉強や研修への参加が可能かどうかを基準に決めるケースが多い。これは、日々進化する技術や知識を向上させるためには個人では難しく、組織に協力してもらう必要があると考えているからである。
オレンジタウンは地域のコミュニティの場だけではなく、職員のコミュニティの場、学びの場としても活用され、スタッフのモチベーション維持に役立っている。スタッフ向けの勉強会が終了した後、時間が遅かったこともあり、全員におにぎりとジュースが配られていた。
杉本ゆかり
跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長