全館連続の暖房が求められるが…「サボってきたツケ」
Q:ヒートショックの解決に断熱がなぜ必要なのでしょうか
A:そもそも、人類の身体は数百万年間住んでいたアフリカの暑くて乾燥した気候に最適化されています。日本のように夏は蒸し暑く、冬は寒い気候では、そのままでは暮らせません。人間が健康・快適に暮らすためには、適切な温熱環境が不可欠です。
ヒートショックの予防のためには、家中いつでもどこでも18℃以上を確保することが大きな目安になると考えています。快適のためにはより高め、冬であれば室温22~26℃が目安です。
家中をいつも健康快適な温度に保つため「全館連続」の暖房を行うと、断熱性能が低く、熱が室内から屋外にどんどん漏れる日本の住宅では、膨大な熱が必要になり暖房費も高くついてしまいます。健康快適な室内環境を少ないエネルギー・暖房費で実現するためには、熱の勝手な出入りを防ぐ断熱が不可欠なのです。
Q:菅前首相が、2030年の温室効果ガス目標「2013年度比46%削減」を表明しました。家庭部門(住宅分野)においては、66%削減が目標になっています。これについてはどのように捉えていますか?
A:住宅における66%削減という目標は、途方もなく高いレベルであり、ほぼ実現不能だと思います。2020年度までの実績は19.3%減にとどまっており、しかも前年の2019年から4.9%増加してしまいました。コロナ禍で在宅時間が増加したためと推測されます。
残念ながらエアコンの省エネ性能は頭打ちで、これ以上の改善は期待薄です。これまで先送りされていた断熱性能の向上が重要なのですが、さきの1999年に定められた断熱等級4ですら、今でも住宅ストック全体の1割しかありません。
家電・設備を偏重する一方で、住宅そのものの性能向上をサボってきたツケは、重くのしかかっているのです。
Q:日本の住宅政策において、断熱はなぜ軽視されてきたのでしょうか
A:国土交通省の前身である建設省は戦後一貫して、住宅の「量」の充足を重視してきました。戦後直後は「一家に一軒」、高度成長期は「一人に一部屋」というように。量が充足した1980年以降は、「質」の向上をめざすべきだったのですが、残念ながら室内の温熱環境改善などは重視されませんでした。断熱の基準も省エネ・節油のために定められたにすぎません。
その後の民営化・規制緩和の流れもあり、住宅の質の向上は建設業界に丸投げされてしまいました。「日本人みんなが健康快適に暮らせる住環境」の追求が経済に余裕があった時代に行われなかったのは、返す返すも残念なことです。