写真提供:アトリエカムイ

記事前編では、「日本で住宅の断熱性能が軽視され続けてきた背景」について解説してきました。後編では、今後予想される「住宅性能の制度改革」と、これから家を建てる人へのアドバイスについて、住まいるサポート株式会社代表取締役・高橋彰氏と東京大学大学院准教授・前真之氏がインタビュー形式で解説していきます。

【前編】我慢強いにもほどがある…「日本の家が寒すぎる」残念な理由

最小限の暖房で健康快適に…「等級5・6・7」の新設

Q:現状で国交省により推奨されている、省エネ基準最上位の「断熱等級4」は、1999年に定められたものです。しかし今後、省エネ基準の適合が義務化され、「断熱等級5・6・7」が新設される方向のようですね。

 

A:日本では断熱や省エネは住宅の新築・改修において義務ではなく、必ずしも満たす必要がありませんでした。さすがにそれはまずいということで、本来は2020年度から適合義務化を行う予定だったのですが、なぜか無期限延期になっていました。

 

今回、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」などでの議論を通して、「2025年までに断熱等級4」と新築で一定の省エネ性能を義務化することが決まりました。また、等級5・6・7が上位の断熱等級として新たに設定されることも決まりました([図表]参照)。

 

[図表]等級5・6・7

 

Q:今回新たに設定された断熱等級5・6・7について、簡単に説明をお願いできますか?

 

A:断熱等級5はゼロエネルギー住宅、通称ZEHに求められている断熱性能です。これまでの断熱等級4よりは改善されていますが、健康快適のために全館空調を行うと暖房に多くのエネルギーが必要となり、残念ながら十分とは言えません。

 

一つ上位の断熱等級6なら、断熱等級4の家で部分間欠暖房を行うのと同じエネルギーで全館空調が行えます。最上位の断熱等級7は世界でもトップクラスと言ってよいでしょう。

 

また、[画像1]断熱・気密性能が異なる室内のサーモカメラの画像を見ていただければ、G2レベル(断熱等級6)の住まいの快適さがお分かりいただけると思います。

 

出典:暮らし創造研究会「心地よい住まいの暖房計画 増補改訂版」 https://kurashisozo.jp/img/effort/pdf2.pdf 撮影協力:LIXIL住まいStudio東京
[画像1]断熱・気密性能が異なる室内のサーモカメラの画像 出典:暮らし創造研究会「心地よい住まいの暖房計画 増補改訂版」
https://kurashisozo.jp/img/effort/pdf2.pdf
撮影協力:LIXIL住まいStudio東京

 

Q:等級5・6・7ができると、これからの住宅業界にどのような影響を及ぼすとお考えですか?

 

A:断熱等級5が当面は誘導基準とされ、2030年までに義務化される予定ですが、省エネと健康快適の両立には不十分です。

 

断熱等級6なら、現状と同じ暖房エネルギーで圧倒的に健康・快適な室内環境を得られます。高断熱な窓の普及に伴い追加コストも下がってきており、この断熱等級6を新築のベースラインと考えるべきです。

 

断熱等級7は、非常に強力な断熱レベルですが、窓をかなり小さくする必要があるなど、設計の制約は厳しく、コストも高くなります。

 

メニューに松竹梅があれば多くの人が竹を選ぶように、等級5・6・7があれば6を選ぶ人が多いでしょう。今後は断熱等級6をベースラインに、地域の気候に基づいて、最小限の暖房エネルギーで健康快適な室内環境を実現する、最適な断熱レベルが普及していくことが期待されます。

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