写真提供:アトリエカムイ

他の先進国と比べ、「断熱性能」が大きく劣ってしまっている日本の住宅。なぜ、我が国はこれまで断熱性能を軽視してきたのでしょうか。その経緯について、住まいるサポート株式会社代表取締役・高橋彰氏と東京大学大学院准教授・前真之氏がインタビュー形式で解説していきます。 ※本記事は前編です。後編では、今後予想される「住宅性能の制度改革」と、これから家を建てる人へのアドバイスについて解説します。

日本で放置されてきた「断熱性能」…なぜ重視すべき?

それでは、前先生に順にお話を伺っていきます。

 

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Q:まず、断熱の目的とはなんでしょうか

 

A:断熱とは、屋外と室内の間での「熱の勝手な出入り」を防ぐことです。住宅の断熱性能を高めることにより、冬においては、少ない熱で家じゅうを暖かくすることが可能になります。

 

つまり断熱の効果には大きく分けて「暖房の省エネ・省コスト化」と「健康・快適な室内温熱環境の実現」の2つが挙げられます。

 

Q:諸外国と比べた「日本の住宅性能の現状」について、どのようにお考えでしょうか?

 

A:現状で国交省が定めている最上位の「断熱等級4」は、1999年に定められたもので、20年以上前から変わっていません。当時でも本当はもっと高いレベルにしたかったのが、様々な反対でできなかったという話を聞いたことがあります。

 

1999年の時点ですでに大したレベルではなかったのですから、現在では全く不十分なのは自明でしょう。しかも適合義務ではなく、あくまで推奨という扱いだったので、未だに等級4を満たしていない新築が堂々と建ってしまっているのが現実です。

 

海外では多くの国で、住宅の断熱基準は義務とされ、逐次レベルアップを図ってきました。日本は住宅の性能向上で、外国に大きな後れをとってしまったと言わざるを得ません。

 

Q:なぜ低いレベルの断熱性能が放置されてきたのでしょうか。

 

A:日本の省エネは、1970年代のオイルショックがきっかけではじまりました。当時、テレビやエアコンが急速に普及していたこともあり、発電に必要な原油を減らすべく、家電の節電が重視されました。おかげでエアコンの高効率化は進んだ一方で、建物そのものの性能向上は軽視されました。

 

そもそも、日本では「冬は寒くても仕方がない」と、不快な室内環境が当然のことと許容されてしまっています。「冬は寒い方が身体が鍛えられる」という意見すらあります。また人がいる部屋だけ控えめに暖房する「部分間欠」の使い方が一般的なため、暖房のエネルギーやコストもそれほど大きくありませんでした。

 

最近になってようやく、家の中の寒暖差が血圧の急変動などの健康被害を及ぼす「ヒートショック」が広く知られるようになり、住宅の断熱性能が注目されるようになってきたのです。

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