(※写真はイメージです/PIXTA)

不動産経営を行う上で、もっとも多いトラブルといえば、フローリングの傷や水回りのカビなど、「入居者はどこまで原状回復の義務があるのか」ということでしょう。本記事では、不動産法務に精通する、日本橋中央法律事務所 弁護士の山口明氏が、不動産オーナーが知っておくべき「原状回復義務」の実際について解説していきます。

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「特別損耗」については、原状回復を行う義務がある

賃借人は、賃貸借契約の終了時に、原状回復義務を負います(民法621条)。

 

そして、最高裁平成17年12月16日判決では、特約がない限り、「賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する『通常損耗』」について、原状回復義務を負わない、つまりは通常損耗を超える特別損耗について原状回復義務を負う旨を判示しています。

 

「特別損耗」にあたるのは、どんな汚れ・傷なのか?

では、通常損耗を超える「特別損耗」とは、裁判例においてどのように判断されているかが問題となります。

 

これについては、国土交通省における「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下「ガイドライン」といいます。)が策定されていて、裁判例もこのガイドラインに従って判断するものが多くなっています。

 

ガイドラインにおいては、通常損耗に該当するもの、特別損耗に該当するものが例示されているのですが、特別損耗に該当する例としては、以下のようなものが挙げられます。

 

①引越作業などで床等に生じたひっかきキズ
②カーペットに飲み物等をこぼした後の手入れ不足等で生じたシミ・カビ
③落書き等の故意による毀損
④清掃・手入れ等を怠った結果、台所、ガスコンロ、風呂、トイレ・洗面台などに生じた汚損
⑤喫煙等によるクロス等の変色や臭いの付着
⑥結露を放置したことにより拡大したシミ・カビ
⑦重量物の掲示等のためのくぎ、ネジ穴
⑧賃借人所有のクーラーの保守を怠ったことによる壁の腐食等
⑨飼育ペットによる柱等のキズ・臭い

 

なお、ガイドラインにも、特別損耗に該当するキズの大きさや、シミ、カビの程度などが具体的に明らかにされているわけではありませんので、裁判になった場合には、キズ・シミ・カビなどの個別具体的な状況に応じて判断されることになります。

ふすま紙・障子紙等の消耗品は経過年数が考慮されない

また、賃借人の負担となる範囲については、ガイドラインにおいては、原則として「可能な限り毀損部分の補修費用相当分となるよう限定的なものとする。この場合、補修工事が最低限可能な施工単位を基本とする。」とされています。

 

しかし、部分補修などに限られるわけではなく、たとえば、壁のクロスについては、毀損させた箇所を含む一面分までは張替え費用を賃借人負担としてもやむを得ないとするなど、毀損の内容や箇所に応じて、その範囲が判断されています。

 

加えて、ガイドラインにおいては、建物や設備等の経過年数を考慮し、年数が多いほど賃借人の負担割合を減少させるとしています。

 

しかしながら、①長期間の使用に耐えられる部位であって、部分補修が可能な部位(フローリング等)の部分補修や、②ふすま紙、障子紙、畳表などの消耗品としての性格が強いものなどは、経過年数を考慮しないとされているのです。

 

以上のように、原状回復費用については、費用負担についてトラブルになることが多いため、①一定の金額を保証金から定額で控除する条項を設けておいたり、②ハウスクリーニング特約として一定の金額を差し引く旨の条項を設けたりして、対応することも検討してみてください。

 

 

日本橋中央法律事務所
弁護士

山口 明

 

 

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本記事は『アパート経営オンライン』内記事を一部抜粋、再編集したものです。

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