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契約書にペット飼育の禁止の定めがない場合は…
まず、契約書にペット飼育の禁止の定めがない場合、建物内で猫を飼うという行為自体に違法性があるとは認められないとした裁判例があります。そのため、①ペット飼育を禁止するのか、あるいは、②ペット飼育を認めるのか、を契約書で明確に取り決めておくべきです。
①ペット飼育を禁止する条項を入れておけば、賃借人がこれに違反した場合には、賃貸借契約を解除することができます(ただし、違反した場合であっても、信頼関係を破壊するまでに至らない場合には、解除を否定される可能性もゼロではありません。)
他方で、②ペット飼育を認める場合には、後述するとおり、退去時の原状回復の範囲などでトラブルが生じることが多いため、原状回復に関する事前の手当てをしておくことが重要です。
では、ペットを飼育していた場合、退去時の原状回復において、どのような点がトラブルになるのでしょうか。
ペットを飼育できる物件「原状回復義務」の範囲は?
まず、原状回復義務の範囲ですが、契約書の内容にもよりますが、国土交通省の原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(以下「ガイドライン」といいます。)においては、「ペットにより柱、クロス等にキズが付いたり臭いが付着している場合は賃借人負担と判断される場合が多いと考えられる。」とされています。
そのため、ペットによって発生した、キズ、しみ、臭いは、個別の事案の程度によって異なりますが、原状回復義務を負うとされる事例が多く存在します。
しかし、実際の交渉や裁判では、(a)柱やクロス等についているキズが、ペットによってできたキズではないとか、自分が入居する前から存在した、といった主張がされることがあります。
また、(b)ペットの糞尿によるシミがフローリングや畳に残っていた場合にも、同じような主張がされることがあります。
さらに、(c)室内にペットの臭気が残っていた場合にも、許容範囲の臭気であるから通常損耗の範囲内であるといった主張がされることがあります。このような主張がされた場合には、賃貸人において、ある程度の立証をしていく必要があります。
入居者とのトラブルを防ぐためにオーナーができること
このようなトラブルを未然に防止する観点からは、①入居直前の室内の写真を撮影しておくこと、②退去直後の室内の写真を撮影しておくことが必要になりますが、それに加えて、原状回復業者の作業報告書などを作成してもらうことも重要となってきます。
なお、実際の裁判において、カーペットに残っていたしみがペットのものとは断言できない、ペットの臭い残存していたと認めるに足りる証拠がない、などとして原状回復を否定されている事例がありますので、留意が必要です。
原状回復の範囲や金額に関する紛争が生じることは避けたいところですが、これをできる限り防ぐためには、①契約書に、ペットの飼育によって発生するキズ、汚れ、臭いがどこまで原状回復義務の対象になるのかを細かく記載しておくという方法、②ペット償却金条項(ペット飼育を認める代わりに、一定の合理的な金額を保証金から自動的に償却する条項)を設ける方法などが考えられます。
前述したとおり、ペットによるキズ、汚れ、臭いについては、「ペットによって生じたものではない」「入居前から存在した」と主張されることがあるため、どこまで細かく契約書に記載しても、立証上の争いが発生する可能性があります。
そういった立証上の争いを防ぐという観点からは、ペット償却金条項を設けておく方が望ましいといえるでしょう。
日本橋中央法律事務所
弁護士
山口 明
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