(※写真はイメージです/PIXTA)

メンバーに主体性が備わればチームパフォーマンスが上がる。そう信じているリーダーはたくさんいますが、それはまったくの間違いです。個人の行動は、チームの雰囲気やメンバーとの関係性、リーダーからの働きかけなどに大きな影響を受けるということが多くの研究で明らかになっています。チームパフォーマンスとは、「チームが売上や開発の目標といった実現すべき成果に影響を与えるメンバーの主体的行動の総和」。ここでは、メンバーから主体的な行動を引き出すポイントを見ていきましょう。

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メンバーから主体的な行動を引き出す3つのポイント

メンバーの主体的な行動を引き出すために知っておいてもらいたいポイントがあります。

 

①仕組み作り:自主性を育てるには「メンバーと一緒に作る」ことが大事

一つ目が仕組み作りです。チーム力向上というと、仕組み化すればよいのではという人がいます。その仕組み化の内容を問うと仕事の手順を洗い出して標準化し、ルールを明確にして、それを守って仕事をすることだといいます。問題は誰がその仕組みを作り、どのような形で守らせているかです。

 

例えば「商談シート」をリーダーが作成し、「客先に行って、ここに書いてある項目を埋めてこい。面談の時間は30分以上だ」などとメンバーに指示するとします。確かにどの営業パーソンでも同じように仕事ができます。シートのできが良ければ、受注率もそろってくるかもしれません。しかしそれは主体的に行動した結果ではありません。

 

今まで受注できなかった営業パーソンが受注できるようになるのは喜ばしいことです。しかし長い目で見ると、その営業パーソンは成長しない恐れがあります。自分で考えず、指示されたことをそのとおりに実行することが習慣化してしまったメンバーは、受け身的な人材になってしまいます。

 

仕組みやルールを作るにしても、メンバーと一緒に作り、メンバーの考えも踏まえてルールを作ることが大切です。最後に決めるのはリーダーでよいですし、メンバーの意見がすべて反映される必要はありませんが、メンバー自身が「考える」機会を作ることが大事です。そうでなければ自主性・主体性が育たず、チームは活性化しません。

 

仕組み化というのは本来、指示されなくても自動的・自律的に動けるような仕組みを作るということですが、そもそもプロセスに加わったり、仕組みの運用においても考える機会がなければ自主性は育たないのです。

 

ただ気をつけてほしいのは、緊急時においては自主性を育てる余裕はありません。1カ月で今ある在庫を売りきらなければ会社が潰れてしまうというようなときには「強烈なトップダウン」のほうが効果を発揮します。経営者や管理職が指示・命令すべき場面もあるということです。

 

とはいえ外部環境の突然の変化が原因でこういう事態になった場合は別として、危機を招いてしまったのはそれまでのマネジメントの仕方に問題があったのかもしれません。中長期的視野でチームマネジメントに取り組んでこなかった結果、メンバーの自主性が失われ、積もり積もって危機的状況になっていた可能性があります。なぜこうなったのか、分析する必要があります。

 

例えば現場の社員は危機の兆候に気づいていたのに、管理職以上に報告が行っていなかったというケースがよくあります。

 

「何かおかしい」「どうやらまずいことになりそうだ」と薄々感じていても「そんなことを言ったら怒られるんじゃないか?」「言おうとしたのだけど周囲に止められた」「誰も言わないから問題じゃないと思っていた」などの理由で発信ができなかったという話を多くの会社で聞いてきました。指示・管理型マネジメントが行われており、成果が上がれば称賛され、失敗すると鞭を打たれる職場ではありがちなケースです。

 

②褒め方:自主性を伸ばすには、「結果」よりも「プロセス」を褒めるべき

2つ目は褒めるということについてです。チーム内においてリーダーがメンバーを褒める、称賛するということは大切です。

 

日本には「褒めて育てる」という言い方があります。叱るよりも褒めたり称賛したりするほうが人は成長するという考え方に基づいています。飼い犬の躾などでも悪さをしたときに叱りつけるより、良いことができたときに褒めるほうが良いとされています。しかし人間の場合はそうではありません。

 

褒めるという行為には言葉で褒めるというやり方のほか、賞品や報奨金などインセンティブを与えるという方法もありますが、問題は褒める理由です。

 

フィックストマインドセットとグロースマインドセットの概念では、「結果を褒められて育った人はフィックストマインドセットになりやすく、プロセスを褒められて育った人はグロースマインドセットになりやすい」ことが分かっています。

 

「グロースマインドセットは、自分の能力は伸ばせるという考え方に基づき、自らストレッチなゴールを掲げて、失敗を恐れず、難問にチャレンジし、そこから学ぼうとする態度」なので、自主的な人のマインドセットだといえます。したがって、グロースマインドセットのリーダーが望ましいのと同様に、チームパフォーマンスを向上しようと考えるのであれば、グロースマインドセットのメンバーが集まっているほうが向上しやすいといえます。

 

そのためには、リーダーは結果を褒める以上に必ずプロセスを褒めるようにしなければならないのです。その観点でいうとたとえ結果がよくても手を抜いていたり、いい加減にこなしていたのだとすればそれは叱責や注意に値します。褒めるのもプロセスであれば、叱るのもプロセスでなければならないのです。

 

③リーダーシップの取り方:「率先垂範」は逆効果

3つ目はリーダーシップです。リーダーシップの取り方としては、いわゆる「率先垂範」というものもあります。

 

自分が先頭に立つということは大事なことですが「私のやり方を見ておけ! 手本を見せるから、やってみろ!」とまでいくと、結局上司から部下への命令型のマネジメントです。一時的な個人のパフォーマンス向上に役立っても、チームパフォーマンスの向上にはあまり役立たないといえます。

 

そもそもリーダー一人で考えても、解決策が出ない時代に突入していることが問題だったはずです。手本を見せられるような仕事は今やほとんどなくなってしまったのです。

 

もちろんまだ見習いレベルの新入社員には有効なケースもあります。しかし、今や自分がチーム内で最も優れているというリーダーよりも、自分よりも優れている人を何人も育てたリーダーのほうが優秀だという時代になっていると、私は感じています。

 

全国に100ヵ所ほどの営業所をもつ会社のコンサルティングをしたときのことです。定期的にチームパフォーマンスをスコア化し、分析結果をウォッチしていると、スコアが突如劇的に上がる営業所が出てきます。その多くがエリアマネージャーが交代した営業所でした。はっきりいってしまうと、リーダーが替わればチームパフォーマンスは簡単に向上するのです。

 

ただし長続きするかどうかは、新しいリーダーが主体性を重んじてメンバーの力を引き出すマネジメントをするかどうかにかかっています。メンバーが指示や命令を順守することによってチームパフォーマンスが高まっているのであれば、そのリーダーによる指示・管理型のマネジメントが続けば「やらされている」という不満が高まり、チームパフォーマンスは下がっていきます。そしてまたリーダーが替わると、新しいリーダーへの期待から一時的にはパフォーマンスは上向きますが、指示・管理型のマネジメントであれば、やがて下降線をたどるという負のスパイラルに陥るのです。

 

これは指示・管理型のリーダーでは、メンバーの一時的なパフォーマンスは引き出せても主体性を育むことはできないということを表しているのです。

次ページチームをマネジメントするうえで最も重要なこと

※本連載は、橋本竜也氏の著書『チームパフォーマンスの科学』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

TEAM PERFORMANCE チームパフォーマンスの科学

TEAM PERFORMANCE チームパフォーマンスの科学

橋本 竜也

幻冬舎メディアコンサルティング

「科学的アプローチ」でチームパフォーマンスを客観的に評価する! 一人ひとりの社員は優秀なのに、チームパフォーマンスが上がらない…。そんな悩みを抱える管理職・リーダー層に向けた、待望の一冊。 マネジメントにお…

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