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物わかりの良い高齢者もいるけれど……
世の中には、物わかりの良い高齢者も存在しています。彼らは、「子供たちに迷惑をかけたくないから老人ホームに入居した」と言います。私の肌感覚で言うと、多くの老人ホームの自立系と言われている入居者の多くは、このようなことを口にしています。
しかし、その多くは本心だとは思えません。むしろ、物わかりの良い親を演じ、子供との関係性を壊したくない、と思っているだけです。「良い親でなければ、子供たちから嫌われる。というよりも、子供たちから捨てられる」という発想は、いったいどこからきているのでしょうか? 私は、次のような心理が働いているからだと、推察しています。
よく言われる話ですが、高齢者は「失う経験の実践者」です。高齢になればなるほど、多くのものを高齢者は失っていきます。視力や聴力、そして体力などの身体的な機能にはじまり、友人、知人が「死」という理由でいなくなっていきます。さらに、仕事がないため、収入は年金だけになるので、当然、預貯金も無くなっていきます。
失う経験の実践者にとって、「家族を失う」「子供を失う」ということは、できることなら避けたい話です。だから、子供とは死ぬまで、人によっては死んでからも、友好的な関係性を継続したい、ということなのだと思います。もちろん、自分が死んだ場合、その後始末を子供に託さなければならない、という現実的な要因も、大いに影響していると推察します。
「おひとり様」というキーワードをよく耳にしますが、この「おひとり様」とは、これらのしがらみに対し、違う価値観で対抗することで、一人の気楽さを楽しむことだと私は理解しています。しかし、私は、初めから一人の人とは違って、家族を形成し、家族とともに暮らしながら、途中で失う経験の実践者として高齢期を迎えた人は、おひとり様になったとしても、一人で強く生きていくことはできないのではないかと考えます。
ただし、女性は強いと思います。ある調査によると、妻を亡なくした男性の多くは3年以内に死んでいるそうです。逆に、夫を亡くした女性は、長生きをしているそうです。