(※写真はイメージです/PIXTA)

男女を問わず産休・育休制度、さらには高齢化時代に対応する介護制度の導入にまで進んでいます。育児に関しては時短勤務だけでなく、当日の休暇申告や自宅勤務など、より弾力的な運用を認める会社も出てきています。男女による昇進・昇格格差の見直しも理想的とは言えませんが着実に進んでいます。ダイバーシティ経営は中小企業といえども避けて通ることができません。中小企業家同友会の取り組みをレポートします。

男性優位の議事運営や決定システムが変化

現在の沖縄同友会だが、女性の代表理事こそいないが、副代表理事として石原地江氏(アンテナ代表取締役)と友寄利津子氏(NPO法人ライフサポートてだこ代表)の2人が活躍しているのに加え、石原氏によれば「すでに女性理事が全体の3割を超えている」という。

 

石原氏は幼児をロンドンで過ごし、その後アメリカに留学、テンプル大学を卒業すると沖縄に戻った。旅行代理店、通訳会社などに勤めた後、1997年に劇的な出会いをした友人とアンテナを設立。つぶれる寸前までいったこともあるそうだが、現在は7人の社員と70人余のバイリンガルの登録スタッフを率い、企業や米軍関係の文書の翻訳業務や企業の海外業務を様々な角度からサポートするなどのビジネスで安定した経営を続けている。

 

キャリアもあって、石原氏の語り口はごく明晰。理事が3割を超えた結果、沖縄同友会がどう変化したかをこう語る。

 

「近年、同友会内で特に女性が活躍しやすい環境が急速に整えられたように感じます。6年ほど前までは、出席していても発言の機会がなく、なんでこんな会議をやるのかと疑問に思うようなこともありました。

 

しかし、今は例会でも女性会員の発言は多いですし、議長が『そろそろ今日の会議は終了したい』と言うや否や、ハイハイハイと手が挙がり、1分間だけ時間をくださいと言って、『子供の貧困問題を考える会合を今度やります。関心のある方はぜひ見に来てください』とか、『障害者雇用について一緒に考えませんか』とか、例会で取りあげられなかったテーマについての発言も相次ぎます。こうした女性が活発に活動する沖縄同友会の特徴は、糸数氏のような女性リーダーが他県に比べて多かったこと、沖縄独特の支え合いの精神と同友会理念が融合したことが理由ではないでしょうか」

 

2010年に閣議決定された「第3次男女共同参画基本計画」において、政府は「社会のあらゆる分野において、20年までに指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度とする」と目標値を掲げた。

 

その時点で「指導的地位」に占める女性の割合が30%を超えていたのが、薬剤師と国の審議会等委員の2つだけ。その後も3割を超える分野が出てきたとは聞かないが、女性比率が3割を超えてくると、女性目線の議論が反映するとともに、男性優位の議事運営や決定システムが変化し、組織の雰囲気や決定内容が大きく変わってくることは間違いないだろう。

 

こうした変化に対する考え方、評価は個人個人で異なるだろうが、少なくとも人口の半分を占める女性の意見が社会の様々な面で反映することは意味あることだ。同友会の全国組織である中同協の会長、副会長、幹事長など主要役員にはまだ女性がいないが、遠からず女性が登場するだろうし、しないはずがない。

 

■女性が働きやすい職場とは

 

話を後段の、「組織において女性の働きやすい環境、つまり産休・育休が取りやすく、昇進・昇格において男女差別がない職場づくり」、結果として「女性が潜在的に有している能力を発揮できるように制度や風土を改革すること」について移そう。

 

沖縄同友会女性部会をけん引してきた糸数久美子氏は、ITACという会社を経営している。愛知県出身の糸数氏は、夫で沖縄同友会初代代表理事を務めた糸数哲夫氏が、43年前に沖縄に帰り税理士事務所を開くに際し、夫唱婦随で手伝い、その後事務所の計算部とコンサルタント部門を一体化し、独立させるにあたり代表者となった。

 

現在、税理士事務所とITACグループとを合計すると男女半々、五十数人のスタッフになるが、「もともと会計事務所という特質からいって、女性の割合が高い。特に事務部門は。しかも、まじめな人が多い。それで早い時期から係長や課長に引き上げた。現在、男性部課長6人に対して、女性は4人。これは監査業務が増えて、男性社員が増えたことの影響です。女性社員の勤続年数も長く、38年とか、30年以上という人が数人います。子供も3人産み育てた人も数人いて、現在も産休中の人が2人います。

 

初期のころに子育てが終わったら戻ってきたいという女性がいて、それ以来、次々と産休・育休明けとともに戻ってくるようになった。一人が休みに入ると皆でその仕事をカバーするようにしており、休んでいるときにも会社の状況を知らせているために戻ってきやすいようです」と糸数氏は解説する。

 

「うちの場合は、(ダイバーシティに関して)制度化されている面もあるし、そうでない面もありますが、女性たちが長く働いてくれているのは、基本的に家族的にやってきたからだと思います」

 

6月21日の埼玉同友会設営の「女性経営者全国交流会」でも「家族的」という言葉を耳にした。この日、筆者は澤浦彰治氏・原ミツ江氏が報告者となった分科会に出席したのだが、そのタイトルは「誰もが輝く『大家族経営』をめざして」だった。

 

群馬県の赤城山麓で農業生産法人グリンリーフを中心に5社からなる企業グループ(連結売上高36億円)を経営する澤浦社長とその右腕となって働いてきた取締役の原氏の経験談はリアルで波乱に富み、出席者を引き込むに十分だった。有機コンニャク栽培からスタートし、有機小松菜などの野菜栽培、有機野菜の漬物製造、有機冷凍野菜製造と手を広げてきた同社は、常に人材確保で悩み、試行錯誤を重ねてきた。

 

その解決策が「大家族経営」。地縁・血縁・知縁といった縁を大事にし、子育て中の女性や高齢者、障害者と雇用の輪を広げている。澤浦社長は、「現在グリンリーフの社員は109人。うち76人が女性。彼女たちの多くが時間給社員だが、当社では彼女たちのパワーを必要としており、長く働いてもらうために年金がつくようにしています」と語る。女性の最高齢は75歳で、役員も7人中4人が女性だという。

 

グリンリーフは現在、子育て中の女性が働きやすいように社内託児所を建設しただけでなく、子育てが終わった女性が労働意欲を持ち続けられるように成長支援制度(評価制度)の導入や将来に向けてのキャリアプランの提示なども行っている。

 

地縁血縁関係の濃い地域性からきているのだろうが家族経営を大事にしながらも、ダイバーシティ経営へと数歩前へ踏みだしていると言っていいだろう。

 

※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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