(※写真はイメージです/PIXTA)

男女を問わず産休・育休制度、さらには高齢化時代に対応する介護制度の導入にまで進んでいます。育児に関しては時短勤務だけでなく、当日の休暇申告や自宅勤務など、より弾力的な運用を認める会社も出てきています。男女による昇進・昇格格差の見直しも理想的とは言えませんが着実に進んでいます。ダイバーシティ経営は中小企業といえども避けて通ることができません。中小企業家同友会の取り組みをレポートします。

退職理由の8割は結婚や育児、介護、配偶者の転勤

■それでも高い、女性の退職者比率

 

すでにここまでの連載で名前のあがった企業、例えば日本茶のパッケージ市場でトップに立つ吉村では、橋本久美子社長が「仕事ができる女性社員が妊娠を機に次々と辞めていく」ことに危機感を抱き、そのうちの一人、現在、販売サポート部課長代理を務める須永史子氏が出産後の2006年、復職を願い出たのを好機に、彼女をモデルケースとして子育て中の女性社員が継続して働ける仕組みづくりに取り組むことにした。

 

結果、現在の吉村は女性の産休・育休の制度化はもちろんのこと、男性社員の育休も会社として推進する方向へ向かっている。同社は現在、社員のほぼ4割が女性社員だが、結婚や出産を理由に辞める人はほぼいないという。これに先立ち、同社は11年には定年後の再雇用の受け皿として派遣会社正雄社を設立している。正雄は先代社長の名前からとったものだが、こうした社員にしっかり目配りの利いた経営により、既述のように業績も着実に上昇基調にある。

 

広島同友会の会員企業ププレひまわりも女性社員の働きやすい環境整備、制度づくりに力を入れている企業だ。同社の場合、ドラッグストアという業態の特性から全従業員2053人のうち1711人が女性(2017年8月現在)と、女性優位の人員構成となっている。

 

もともと同社は薬剤師だった現専務の梶原啓子氏が「ひまわり薬局」を開店、それが4店まで増えたところで、アメリカ視察から帰国した夫の秀樹氏がドラッグストア展開を提案、1978年に造船で知られる福山市常石に1号店を開設、以降、順調に広島を中心に中四国地方各地へ店舗網を拡大してきた。

 

この間の社員教育と人材確保を担ったのが、梶原専務だった。その過程で10年ほど前「これはまずいな」と思われることが起きた。仕事に通暁した年ごろの女性社員が結婚や、出産で辞めていくのである。

 

母親で子育て経験もある梶原氏はそこで、結婚・出産を経験した女性社員を中心に「スマイル・ママ・アクティブ・プロジェクト(SMAP)」を立ち上げた。目的は言うまでもなく、結婚、妊娠、出産ということがあっても女性社員が辞めなくてもすむような制度設計づくりである。  

 

こうして時短勤務、産休・育休、さらには「準社員制度」という勤務時間や勤務地を限定して働ける制度の導入が続いてきた。人材登用面でも、例えば女性店長は2桁にまで増えてきているという。

 

とはいえ、「退職者の水準は高いですね。それは、結婚や育児、介護、配偶者の転勤などという理由で女性が全体の8割ほどを占めます」という。抜本的対策は「男女比を現在の2対8を、5対5にするということ」と梶原氏は語る。難しいところである。

 

■「女性が活躍」できる制度を、どうつくるか

 

少子高齢化社会が到来し、すでに先進的な企業は、男女を問わず産休・育休制度、さらには高齢化時代に即しての介護制度の導入にまで進んでいる。育児に関しては時短勤務だけでなく、当日の休暇申告や自宅勤務など、より弾力的な運用を認める会社も出ている。男女による昇進・昇格格差の見直しも理想的とは言えないが着実に進む。

 

先に取り上げた家族的な企業経営も、女性や外国人労働者を繁忙期のみ低賃金で雇用する、むき出しの欲望のみの経営などから見れば、はるかに良心的だが、やはり制度で裏打ちされたダイバーシティ経営でないと、働く側に信頼も支持もされない。経営者が代わればどう変わるか、わからないからだ。

 

同友会役員のテキストである『同友会運動の発展のために』(16年刊)に、女性に関する言及がどれくらいあるかを調べてみると、第2章「同友会の活動と運営」の「4.会内組織の性格と役割」の最後の第5項目「青年・女性組織」と一括された文章中に、以下のようにあるのみ。

 

「会内の女性経営者や経営者夫人、女性幹部社員が経営問題を中心に学びあい、同友会理念にもとづき、人間的に高まりあう場として、女性部、女性の集いなどの組織が各地で生まれています。生活者の視点での企業づくりや、命を生み出し育む立場からの活動など、女性経営者ならではの活動が共感を広げています。青年、女性組織には、同友会理事会の理解と支援体制が必要です」

 

「女性経営者ならではの活動」という言葉に、違和感を覚える人も少なくないに違いない。すでにこの点で、「女性活躍社会」という概念から少しずれている気がする。

 

また女性の問題は女性に任せておけばよいという姿勢も垣間見え、「よい会社」「よい経営者」を標榜してきた同友会としてはいささか逃げ腰に見える。今や女性を含めダイバーシティ経営を視野に入れずして「よい会社」も「よい経営者」もありえないからだ。経営指針づくりや共同求人・社員共育同様、同友会全体としてダイバーシティ経営についても、女性部会だけにとどまらない論議が必要ではなかろうか。外国人雇用の研究部会なども必要だろう。

 

清丸 惠三郎
ジャーナリスト
出版・編集プロデューサー

 

 

※本連載は、清丸惠三郎氏の著書『「小さな会社の「最強経営」』(プレジデント社、2019年10月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。肩書等は掲載時のまま。

小さな会社の「最強経営」

小さな会社の「最強経営」

清丸 惠三郎

プレジデント社

4万6千人を超える中小企業の経営者で構成される中小企業家同友会。 南は沖縄から北は北海道まで全国津々浦々に支部を持ち、未来工業、サイゼリヤ、やずや、など多くのユニークな企業を輩出し、いまなお会員数を増やし続けて…

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