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「善玉ストレス」と「悪玉ストレス」の違い
■ストレスが有効に働くとき
日本以上に少子高齢化が進むデンマークでは、かつて、「プライエム」という老人ホームが建設されていました。
完全個室の完全バリアフリー。入居者は食事の支度からトイレの介助、着替えや掃除まで手厚いケアを受けられるという、至れり尽くせりの施設です。
ところが、「夢のようだ」と思われていたこの施設は、1988年に建設が凍結されてしまいました。理由は、完全バリアフリーや行き過ぎたケアが、かえって高齢者の足腰を弱め、健康寿命を縮めてしまうことがわかったからです。
これは、すべてのストレスを人間から取り去ろうとすると、かえって健康にはよくないのだということを表しています。多少不便でも、残された機能を使っていくようにしないと、体はすぐに弱ってしまう。待っているのは寝たきり生活です。
「ストレス」というと、私たちはすぐさま悪いもののように思いがちですが、じつは適度なストレスは人の心身を快適に保つために必要なものなのです。
ストレスのなかにも「善玉ストレス」と「悪玉ストレス」があるわけです。
ある程度プレッシャーを感じても、「この仕事、頑張ろう」とか「運動すると気持ちいいな」というように、意欲や快感をもたらしてくれるレベルのストレスを「善玉ストレス」といいます。やり切ったときに達成感が得られ、もっと成長したいと前向きになれるものです。人生にピリリとハリを持たせるスパイスみたいな存在です。
いっぽう「悪玉ストレス」とは、自分の能力以上の負担を長く頻繁に求められるようなストレスです。「頑張ろう」と思う前に、そのプレッシャーによって押し潰されてしまいそうなもの。
人は「善玉ストレス」を感じると、満足感を得られる脳内ホルモンが分泌されます。自律神経の働きもよくなり、免疫力もアップします。
しかし「悪玉ストレス」を感じると、心はイライラし、脳や体の活動は停滞します。自律神経も過敏になり、健康にも美容にもよくありません。
■「いい人」ほど「悪玉ストレス」を受けやすい
あるストレスが「善玉」になるか「悪玉」になるかは、個人のキャパシティによります。しかし、このキャパシティは心を鍛えることで増やすことができます。
新入社員のときは、なんてことのない仕事にも重荷を感じていたのが、ベテランになってくると平気でサクサク片づけられるようになるのはこのためです。同じストレスでも、年齢やキャリア、経験などによってストレス耐性がつき、いつのまにか「悪玉」から「善玉」へとストレスの立場が変化しているのです。
筋肉トレーニングと同じように、ある限界までは(これ以上の無理をすると心や体に悪いので要注意ですが)心も鍛えれば鍛えるほど強くなります。筋肉を鍛えるのがマシンなら、心を鍛えるのはストレスです。
それまで「悪玉ストレス」でしかなかったものが、いつのまにか「善玉ストレス」へと変わっている。そこでさらに経験値を上げれば、次はさらに一段上の「悪玉ストレス」が「善玉」へと変わります。
そうやって少しずつ負荷を高めていけば、心はどんどんたくましく鍛えられ、どんなことにも落ち着いて的確な対処ができるようになります。