(※写真はイメージです/PIXTA)

原状回復が必須となっていたアパートにおいて、退去から1年以上も原状回復費の支払いを拒否した元借主……貸主は契約違反だとして、原状回復工事完了までの期間の家賃を元借主に請求するため、裁判を起こしました。この貸主の訴えに対し、裁判官はどのような判決を下したのでしょうか。賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際にあった裁判例をもとに解説します。

裁判所は「合意の証拠はない」として賃料請求を認めず

そして、裁判所は、本件については

 

「本件賃貸借契約及び本件更新契約において、本件居室の明渡しにつき「原状回復をした上で明け渡すこと」を指す旨合意したことを認めるに足りる証拠はない。」

「かえって、本件更新契約15条1項は、原状回復と返還(明渡し)とが別の行為であることを前提とし、明渡しに先立って原状回復が行われなければならない旨を定めているものと解される」

 

と述べて、原状回復工事完了までの賃料の請求は認めませんでした

 

また、賃借人がエアコンの撤去などせずに明渡しをしたことについては、

 

「明渡し前の原状回復義務違反を理由とする債務不履行が成立するにすぎないから、原状回復がなされていないことは、明渡し義務の未履行を意味するものではない。」

 

と述べており、あくまでも明渡しと原状回復義務は別々の義務であると判断しています。

 

以上を踏まえると、賃貸人が原状回復工事完了までの賃料の請求をできるかどうか、という点については、「契約書で明渡し前の原状回復義務の履行が合意されていると解釈されるか」という点がまず考慮されることとなります。

 

そして、明渡し前の原状回復義務が合意されていない場合は、あくまでも原状回復義務違反の問題となり、

 

原状回復工事をしなければ新たな賃貸借契約の締結の妨げとなるか、また、この場合に原状回復工事完了までに通常必要な期間はどの程度か」という点を考慮して、工事完了までの期間の賃料請求の可否が判断されることになると考えられます。

 

※この記事は、2020年10月11日時点の情報に基づいて書かれています(2022年3月4日再監修済)。

 

 

北村 亮典

弁護士

こすぎ法律事務所

 

 

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※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

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