(※写真はイメージです/PIXTA)

買い物が楽しい「体験」としてエンターテイメント化されている、体験型ショップが小売業界で注目されているといいます。経営破綻したトイザらスの穴を埋める、玩具店の「CAMP(キャンプ)」は、コロナ禍が直撃されます。この体験型ショップはこの難局をどう乗り切ったのでしょうか、ダグ・スティーブンス氏が著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)で明らかにします。

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    かなり手の込んだテーマ型体験空間を創出

    同店では、玩具に加え、衣料、ギフト、食品の他、両親や祖父母をターゲットにした商品も並ぶ。

     

    「子供たちが持ち歩けるような玩具は、私たちが重点を置いているもののごく一部に過ぎないんです」とカウフマンは言う。「キャンプ」の収入源は、物販の他に2つの柱がある。まず店内で開催するイベントのチケット販売収入、そして前述のとおり、かなり手の込んだテーマ型体験空間もあり、こちらは特定ブランドがスポンサーになる。

     

    「キャンプ」で特に興味をそそられるのは、この特定テーマに即した体験を実現するチームの面々だ。いずれもカウフマン自ら集めた顔ぶれである。「メンバーは舞台経験者ばかりなんですよ」とカウフマン。テーマに即した体験を演出する体験デザイナーは、ブロードウェイ経験者を採用しており、大ヒットミュージカル『ハミルトン』などの作品のセットづくりを担当したメンバーもいるという。なるほど、そういうクオリティだ。

     

    2020年1月に店を視察したときには、秘密の扉を開けて素敵な内部を拝見させてもらった。カウフマンの言葉を借りれば、「舞台」である。私のような子供心を失いかけた者でさえ、まだ帰りたくないと思えるほどの内容だった。

     

    実は私自身、長年、舞台で仕事をした経験があるのだが、カウフマンの話を聞いて、舞台作品の制作陣とほとんど変わらない制作手順で取り組んでいることがわかった。

     

    <まずストーリーを書きます。いつも体験をデザインするときはそうです。店内には1つの動線があります。マジックドアを開けたところに舞台があります。食をテーマにしたクッキングキャンプの場合、いくつもの冷蔵庫の間を抜けると、農場にたどり着き、そこで畑から食品がどのように生まれてくるのかを追っていくんです。>

     

    ストーリーが書き上がってから、「キャンプ」のチームは動線上のポイントごとに配置できそうな商品などを考え始める。カウフマンによれば、どのストーリーでも、展開に合わせて子供たちがさまざまな商品で夢中になって遊ぶ時間も考慮されている。

     

    カウフマン本人が意図したかどうかはわからないが、「キャンプ」は、結果的に「アーティスト」型のブランドを創り上げたことになる。

     

    「アーティスト」型の小売業者は、他の小売業者が扱っている商品と似ているもの、あるいはまったく同じ商品を販売することも少なくない。だが、デザインや演出で卓越した独創性と手腕を発揮して、同じ商品であっても、多彩な体験の機会を生み出す。この体験が独自性や魅力、楽しさにあふれているため、消費者のなかで個性的な存在として認知されるのだ。オンラインでもオフラインでも、顧客が味わった体験にほぼ全面的に頼って差別化を図る小売業者なのである。

     

    多くの場合、「キャンプ」をはじめとする「アーティスト」型の小売業者は、物販だけでなく、体験そのものも入場料やブランドのスポンサー料といったかたちで収益化につなげている。「アーティスト」型小売業者の考え方は、原点が商品販売ではなく体験づくりにあるため、根本的に異質である。いや、むしろ体験こそが商品なのだ。そして商品は、この体験の思い出となる一種の記念品なのだ。

     

    カウフマンが言う。

     

    <最大の資産は、定期的に来店して私たちのメッセージに耳を傾けてくれるオーディエンスがいることなんです。(以前の職場の)バズフィード時代を振り返ると、(サイトを)定期的に訪れては、私たちが提供する記事を読んでくれるオーディエンスがいました。その意味でメディアビジネスなんですね。>

     

    次ページ体験型コンテンツをデジタル化して提供

    ※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

    ダグ・スティーブンス

    プレジデント社

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