(※写真はイメージです/PIXTA)

次から次へと変異株が登場する新型コロナウイルス。今一番勢いを増しているのはオミクロン株です。日本国内でも感染者が確認されていますが、海外に比べると圧倒的に少数。オミクロン株が猛威を振るっていると聞いても、日本人としてはあまりピンと来ないのではないでしょうか。オミクロン株の脅威性について、米国を中心に、現在の感染状況や議論を見ていきましょう。

ピークはこれから…オミクロン株の流行状況は初期段階

IHMEの最新の予測モデルは、オミクロン株の急増に伴い「米国では1月下旬に1日当たりの新規感染者数が280万人を超えてピークに達する、今はその上昇の初期段階」「マサチューセッツ州は、2022年1月末に1日あたり8万7000人以上の患者が発生する可能性がある」と悲観的な見通しを示しています(※6)
 

12月24日のボストン・グローブ(※7)に、ハーバード大学医学部助教授ジャグプリート・チャトワル博士は「今後数週間のうちにウイルスに何が起こるかを予測しようとすると『非常に不確実』になる」と警告します。そして「この急増を人々は予想していませんでした。2ヵ月前には、ワクチン接種が始まって事態は収拾に向かっていました。ところがオミクロンは、この勝負に新たな驚きを投げかけてきたのです」と述べています。

 

さらにチャトワル博士は、オミクロン株は「最悪のタイミング」でやってきたと言います。人々は休暇を利用して旅行や親類に会う準備をしていますが、寒くなると人が集まる場所が屋内になり、ウイルスが感染しやすくなります。また、ワクチンによる免疫力が低下していることも、今後数ヵ月の間に新型コロナウイルスの感染率が上昇する要因となっています。

 

ただし、せめてもの救いは「オミクロン株は、デルタ株に比べて入院や死亡のリスクは低い」とのことです。

 

IHME副所長クリストファー・マレー博士は「世界的に新型コロナウイルスの感染が『激増』している中で、『わずかな朗報』として、オミクロン株は入院と死亡を減らすことになります」「感染症による入院率が大幅に低下し、感染症による死亡率もさらに低下するため、このように感染症や症例が大量に発生しても、世界レベルで見た場合、昨年の冬のデルタ波や冬のピークよりも、入院の急増は小さくなるでしょう」と語ります。

 

※6 https://covid19.healthdata.org/united-states-of-america?view=daily-deaths&tab=trend

※7 https://www.bostonglobe.com/2021/12/24/nation/one-model-projects-sobering-outlook-rising-covid-19-cases-us-mass-omicron-surges/

「オミクロン株がコロナ収束を早める」という推測も

そんな中、一部の研究者は「オミクロン株が、新型コロナウイルスのパンデミックから風土病への移行を実際に早める可能性があること、その過程で多くの感染者と死亡者が出る可能性があること」を推測しています。

 

オミクロン株は感染率が高く、ワクチン未接種の人やブースター接種をしていない人への危険性があるため、入院と死亡は今後数週間から数ヵ月で大幅に増加する可能性があります。ただし、生存者はいわゆる「自然免疫」を獲得しており、次の懸念すべき変異株から身を守ることができる可能性があります。

 

米テレビビジネスニュースCNBCに、世界的に著名なウイルス学者でコロンビア大学教授のデビッド・ホー博士は「公衆衛生学者が言っているように、国民を直撃することになります」「急速な火は非常に速く燃え尽きる(人々に感染する)可能性がありますが、その後(ウイルスは)自滅します」と語ります。 *( )は筆者が捕捉。

 

そして、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)デヴィッド・ゲフィン医科大学感染症科ティモシー・ブリューワー教授は、CNBCにて次のように語ります(※8)

 

「新型コロナウイルスは完全に消滅することはなく、人々は共存することを学ばなければならないでしょう。定期的なワクチン接種と抗ウイルス剤による治療が、感染によって生まれる免疫と結びついて、今後数年間は新型コロナウイルスの発生を大幅に減少させる可能性があります。これは、過去100年間に何度もパンデミックを起こした季節性風土病であるインフルエンザを医師が管理しているのと同じことです」

 

「このウイルスはヒトからヒトへの感染に非常によく適応しているので、決してなくなることはないでしょう。毎年インフルエンザが流行するように、患者数が多い時期もあれば、少ない時期もあるのです」

 

※8 https://www.cnbc.com/2021/12/22/omicron-could-potentially-hasten-the-covid-pandemics-end-says-expert.html

「新型コロナとの共存」に踏み出した南アフリカ

12月24日のブルームバーグによると、南アフリカは、新型コロナウイルスの接触者追跡を止め、感染者に直接さらされた人に隔離をしない、つまりパンデミック抑制のための厳しい制限からの移行を示しています。

 

南アフリカの保健局長は、12月23日に「国民の80%は過去の感染やワクチン接種によって、新型コロナウイルスに対して何らかの免疫を持っている。集団発生した場合にのみ広がりを追跡する」と述べました。またアフリカ民族会議のシフィソ・ブテレジ氏は、「封じ込め戦略はもはや適切ではなく、緩和こそ唯一の実行可能な戦略」「検疫は、多くの人が仕事から離れ、収入を失うため、重要なサービスや社会にとって大きな負担となっている」と述べています(※9)
 

12月24日のニューヨークタイムズ(NYT)に、ヨハネスブルグを拠点とするジャーナリスト・リンゼイ・チューテル氏は「南アフリカ政府は、オミクロン株による感染はそれほど深刻ではないというデータに後押しされ、症状のある人以外の検疫制限を解除しました。この動きは、世界の多くの国々が新型コロナウイルスの感染を避けるのではなく、共存する方法を見つける必要がありそうだということを、ゆっくりと受け入れるための新たな一歩となった」と述べます。

 

また同時に、南アフリカでは、少なくとも6ヵ月前に初回のワクチン接種を受けた人、あるいは重症化するリスクの高い人に、ファイザーのブースター接種を、12月28日から提供する予定です。

 

南アフリカ保健当局は、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のワクチンのブースター接種も認可しました。J&Jのワクチン接種の展開は、オミクロン株を含む、現地でブレイクスルー感染に対する有効性を調査した結果に基づいています。この研究では、主に医療従事者に23万回以上のブースター接種が行われ、入院に対する予防効果は「少なくとも他のワクチンと同等であることがわかった」と保健省は述べています。

 

南アフリカの保健当局は、J&Jのワクチンが稀な血液凝固障害を引き起こす可能性があるという証拠が増える中、「CDCの警告は、豊富にワクチンを持っていることを背景にしている」と慎重な反応を示し、「J&J以外のワクチンを優先するべきだというCDCの勧告に従わない」と発表しました。

 

NYTに、主要研究者の一人であるリンダ・ゲイル・ベッカー教授は、南アフリカのデータから、「この単回接種のワクチンは、低・中所得国で大きな有用性をもつことが示された」と述べています(※10)

 

※9 https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-12-24/south-africa-to-stop-quarantines-as-80-have-past-infection

※10 https://www.nytimes.com/2021/12/24/world/africa/south-africa-covid-quarantine.html?searchResultPosition=1

外出自粛や学級閉鎖…オミクロン株に規制強化は必要?

さて、前述の「Think Global Health」に博士らは「さまざまな国のデータを評価した結果、オミクロン株の脅威をよりよく理解できるようになった」と述べ、次のような議論を投げかけています。

 

オミクロン株が世界を駆け巡る中、オランダやデンマークなどヨーロッパを中心に、規制を強化する国も出てきています。このような防衛策は必要なのだろうか? これまでのところ、オミクロン株はデルタ株よりもはるかに深刻ではないようです。

 

南アフリカ、デンマーク、ノルウェー、イギリスのデータによると、オミクロン株はデルタ株と比較して死亡率がわずか3%、入院する確率がおよそ10分の1であることがわかっています。オミクロンの重大性が低いことを考えると、ロックダウンや学校閉鎖がもたらす経済的混乱、孤立、学習時間の損失などの負のコストは、そのメリットをはるかに上回ると考えられます。

 

IHMEの予測によると、英国では1日の死亡者数は2021年の冬の4分の1以下になる見込みです。米国では、死亡者数は2021年10月の水準に達するものの、昨冬のおよそ3分の2になると予測しています。中南米では、ブラジルで少し増加が見込まれるのみです。東南アジアでは、インドネシアは、2021年の壊滅的なデルタ波の感染でほとんどの人が免疫を獲得したため、オミクロン株の急増は予想されていません。

 

一方、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなど、過去に大きな波を抑えた国々では、オミクロン株によって入院や死亡がこれまでで最も増加する可能性があります。

 

オミクロン株は、インフルエンザよりも致死率は低いですが、感染力は非常に強いと思います。南アフリカでは、オミクロン株はデルタよりも重症化しないという兆候がありましたが、これを確認するためには、他の国のデータが必要でした。南アフリカは、人口が比較的若い。現在、デンマーク、ノルウェー、イギリスのデータを見ていますが、これらの国は高齢者が多いため、南アフリカの人口よりも死亡するリスクが高いのです。これらのヨーロッパ諸国では、高齢者でもオミクロン株の感染症はそれほど重症化しないことがわかっています。

 

博士らは、オミクロン株に対する最善の予防策は、「ワクチン接種を受けるか、3回目のワクチン接種が可能になったらすぐに受けること、そして人前でマスクを着用すること、また、年齢や既存の健康問題によって重症の新型コロナウイルスを発症するリスクが高い人は屋内の集まりを避けること」と主張します。

 

山火事を消すため、新たな山火事を起こさないために、一刻も早く世界中の人がワクチン接種、ブースター接種を受けることを期待します。

 

 

大西 睦子

内科医師、医学博士

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

 

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