ローパフォーマーを生みやすいシステム運用業務の事例
では、ローパフォーマー化したベテラン人材を再生するにはどうしたらよいのでしょうか。実際にあった事例を基に、考えてみましょう。
■そもそもシステム運用業務が「ローパフォーマーを生みやすい」理由は…
本件は、野村総合研究所内のシステム保守・運用(以下「システム運用」という)に携わるチームの話です。システム運用業務の担当者は、厳しい環境におかれています。以前はコンピューターのユーザーは研究所の研究員や、企業に所属するビジネスパーソンに限られていました。それが一般の人もユーザーとなったことで、システム障害の影響範囲が以前より広がり、そのためシステム障害を避けたいというプレッシャーが強まっています。それにもかかわらずシステム運用のコストを下げたいという要望が年々高まっています。減らされる予算のなかで、より高度で品質の高いサービスを求められているということなのです。
そのうえ、コンピューターのお守(も)りだけしていればいいというわけではありません。2000年代に入ってからシステム運用の世界では「ITサービス」という概念が広がりました。これは簡単にいうと、システム運用の範囲が、サーバーやディスク装置、ネットワークなどのハードウェアとそのうえで動いているソフトウェアだけでなく、ユーザーの業務および顧客へのサービスまで含まれるようになったという意味です。
これに関してはとらえ方を変えると、システム運用が以前よりやりがいのある業務になったということでもあります。しかしITサービスという概念が普及し始めた当初は、以下の理由でストレスを増強する要因ととらえられていました。
●範囲が広がったことで仕事が難しくなった
●以前はシステム開発者と向き合っていればよかったのが、向き合う相手が増えて人間関係が難しくなった
●業務範囲が広がることで業務量も増えた
またシステムトラブルは突発的に発生するため、その都度対応しなければいけません。大きなトラブルならば記録に残りますが、ちょっとした電話の応対で済んでしまうこともあり、それらは記録に残りません。しかし実はそのような業務のほうが多いのです。トータルするとかなりの時間になります。そうなると上長は部下の業務量が把握できなくなり、「あいつは何やら忙しそうだが、いったい何をやっているんだ?」ということになりがちです。
このことも「人間関係が難しい」というストレス(増強する要因)になりますし、「業務の達成感が落ちる」というストレス(緩和する要因を失うこと)につながります。そもそも問い合わせの電話に振り回されていること自体が「業務の決定権」を奪われることであり、ますます強いストレスが積み重なります。
システム運用業務がもっている性質もこうした傾向に拍車を掛けます。システムは機能追加や不具合対応のために継続的に改修されることが普通で、結果として徐々に複雑化していきます。運用・保守をしているメンバー以外には中味が分かりにくくなるため、システム運用担当者は長期間同じシステムの担当をすることになります。その点においては業務の難しさはそれほどではなくても、新しいことを成し遂げるときの達成感を得る機会が少なくなります。また「いつまでこのシステムのお守りをしなければいけないのだ」という把握可能感の喪失にもつながります。
このようにシステム運用業務には、至るところに仕事のストレスを強め、ストレス対処能力の落ち込みにつながる罠が潜んでいます。その結果、ローパフォーマー化して、パフォーマンスが落ち、なかにはメンタル不調になる従業員が増えやすくなるのです。