ローパフォーマー化したベテランを再生するには?
しかしこの事例では、ローパフォーマー化したベテランを再生し、システム運用チームを活気ある組織にすることに成功しました。
方針は、強いチーム作りと一人ひとりのモチベーション向上の方法論を確立し、実践することでした。そのために日々のメンテナンスやトラブル対応に追われる「守りの業務」のイメージから脱却し、顧客サービスやユーザーサポートの改善提案といった「攻めの業務」へと転換していくことを決意したのです。
このような活動においては、対象業務(この事例では、システム運用業務)を業務改革活動と位置付け、①組織のトップによる活動の動機付け、②改善の実現に向けてサポートする仕組み、③活動成果を共有する場の提供の3つがポイントになります。
それぞれ①は有意味感や把握可能感の増大につながりますし、②は周囲の支援を増やし、人間関係の悩みを減らす方向に働きます。また③は有益な情報が共有されることで、仕事のやり方が分かり自分にもできるという自己信頼度の向上や処理可能感を高めることにもつながります。同じような悩みを抱えていることも分かり、共感を生むことで人間関係の悩みを減らすことにつながります。
一方で、やる気をもった意欲的なリーダー層、すなわちハイパフォーマーであるリーダーの投入も行っています。ハイパフォーマー上司はチームを活性化する力をもっているため、これも有効な策だといえます。
■「自己アセスメント」と「改善計画」の立案・成果確認も有効
そのほかの策としては、自己アセスメントと改善計画の立案と成果確認があります。
自己アセスメントでは、8つのカテゴリーごとに合計100のマネジメント項目を列挙し、各チームが回答して、自己診断ができるようにしました。回答時点でのチームの強みと弱みが一目で分かり、全体平均や時系列の比較ができることでチームの実力や成長が追えるようになっています。これは自己信頼度の向上につながります。
改善計画の立案とは、チームの強みと弱みを洗い出し、これらを基に改善目標や目標達成に向けた計画を立てることです。チームメンバー全員で強みと弱みを分析し、議論して、全員納得のうえで改善計画を立案し、計画書にまとめます。期末になると計画書を全員で振り返りながら、成果確認を実施します。
こうした取り組みは、チーム全員で話し合う機会を増やすことにつながり、ストレス増強要因である「人間関係の悩み」を減らし、ストレス緩和要因である「周囲の支援」を高めることになります。また自分たちの強みが分かることで自己信頼度が高まります。さらにチームで計画を考えることで、把握可能感と処理可能感も高まります。仕事にやりがいやポジティブな意味が見いだせることになれば、有意味感も高まります。
最も重要なことは、仕事のとらえ方を変えたことです。例えば、システム障害が発生した際には、緊急でフォローすればよいという考え方でした。つまり、担当者はそれぞれ業務担当者の言われたとおりに仕事をすればよいという受け身の姿勢があったのです。対応も属人的で、顧客企業から直接担当者に連絡が来て、担当者もそれに対応するというものでした。見方を変えれば、人間関係・信頼関係ができているという状況ではありましたが、実際にはマネジメント不在な状態に陥っていたのです。
このマネジメント不在状態をどうにかしなければなりません。この事例では、まず3ヵ月間、顧客企業から電話でどんな連絡があったかすべて記録するようにしました。その記録を分析し、誰から誰にどれくらいの問い合わせや連絡があったかを「見える化」しました。その結果、顧客の問い合わせの傾向が分かり、顧客企業に対してさまざまな提案が行えるようになったのです。また見える化によって属人化も徐々に解消されていき、チームとして対応できるように変化したのです。
「やらされ感」溢れる受け身の姿勢から、顧客にこちらから提案していこうという積極的な姿勢に替わったことで、障害を減らしていくための改善こそが運用チームである自分たちの提案の機会や業務の拡大につながると気づきました。そしてより良い提案をするためには顧客企業もパートナー企業も巻き込んでいっていいのだという発想に変化しました。こうなってから急速に成果が上がり始めたといいます。