「建て替えは急務でない」として原告の主張を棄却
(2)原告の自己使用の必要性について
ア.前記認定事実によれば、原告は、本件建物をより収益性の高い共同住宅に建て替える本件計画を有している(前記認定事実(6))。
被告らは、本件計画の実現可能性を争うが、本件建物は、多数の土地に収益性の高い共同住宅を保有し、法人を利用して相続税対策をする必要のある規模で賃貸事業を営んでいる原告にとって、最後の平家建て建物であり(前記認定事実(6))、
原告が被告らの退去を求める訴訟を短期間に2回提起していること(同(4))に証拠(甲12、13)を総合すると、本件計画に実現可能性がないとは認め難い。
しかし、本件計画は、原告自身が直接本件建物を使用するというものではないし、原告の主張によっても、本件計画による増収は、当面、月額約3万円程度にとどまるところ、上記のとおり、原告は、既に相当規模の賃貸事業を営んでいるものであり、本件建物を現在直ちに建て替えなければ、原告の社会生活に何らかの支障が生じるとは認め難い。
本件建物を現在直ちに建て替えたい理由について、Fは、原告が老齢となり借入れに支障が生じると証言するが(甲25、証人F・13頁)、その裏付けはされていないし、法人を利用した賃貸事業も行っている原告にとって、年齢が、現在直ちに本件建物を建て替える理由となるとは認め難い。
そうすると、本件計画は、被告らを現在直ちに本件建物から退去させる客観的な必要性を基礎付けるものとは言い難い。
イ.もっとも、本件建物は、本件解約告知当時、築後57年を経過した旧耐震基準の木造建物である(なお、被告らは、本件建物が居住の用に適する理由として本件各増改築等を挙げるが、本件増改築等に耐震補強などの構造補強が含まれるとは認められない。)。
そして、原告は、本件建物を近く発生するといわれている首都直下型地震に耐える程度のものにすることが急務であるとし、これに相当程度の修繕費用を要することから建替えの必要性があると主張し、Fは、これに沿う供述をする(甲25)。
しかし、我が国の木造建物には旧耐震基準の建物が多数あると考えられ、その全てが現在直ちに建て替える必要があるといえるものではない。そして、D意見書(乙11、12)によれば、本件建物は、
①昭和34年の新築当時、建築確認及び完了検査を受けた建物で、
②その基礎は、現在でも一般に採用されている鉄筋コンクリート造の布基礎で、全体として矩形のそれほど複雑でない平面をした瓦葺き平家の建物である上、
③全体的に壁量が多いことから平成12年改正後の壁量に関する基準に準じている可能性が高く、
④仮に適合しない場合にも、同基準に示された補強は比較的平易に行い得、
⑤土台等に白蟻による被害も見当たらず、
⑥東日本大震災を含む地震等による損傷の跡は殆ど見当たらない
とされ、これらのことから、現況のままで、ある程度の規模の地震には対応することができ、早急な耐震補強工事や建替工事が必要とはいえないとされている。
同意見は、専門家である一級建築士によるものであり、その内容に不合理なところは見当たらず、その調査に不備があったり、被告らの依頼に専門家としての中立性を阻害するところがあったという気配はない(被告Y2本人36~37頁)。
また、原告は、D意見書のうち乙11号証に多くの問題点があると主張して、E意見書を提出したが、E意見書に対して提出された乙12号証に対しては、専門家の意見や反論を提出しない。そして、当事者双方は、平成30年2月28日の本件第9回弁論準備期日において、各建築士に対する尋問の申出はしない旨を表明した。
以上の立証状況を総合すると、少なくとも、本件建物が、現在直ちに建替えや大規模補修をしなければ居住に適さないほど危険とはいえない点については、鑑定を経るまでもなく、合理的な疑いはないということができる。
そうすると、本件建物の老朽化や耐震性もまた、前記(1)認定・説示の状況にある被告らを、現在直ちに本件建物から退去させて本件建物を建て替える必要性を補強する事情となるとは認め難い。
※この記事は2021年12月2日時点の情報に基づいて書かれています(2022年1月14日再監修済)。
北村 亮典
弁護士
こすぎ法律事務所
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