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父のクリニックを継ぐことに迷いはなかったが…
女性医師のなかには、親が医師、それも開業医というケースが結構あります。その場合、ある程度の年齢になると、親のクリニックを継ぐかどうかという選択肢が出てきます。
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【原さん(仮名)のプロフィール】
年齢:39歳
所属:開業医(クリニック経営)
専門(標榜科):内科・肛門外科・皮膚科・泌尿器科・糖尿病内科
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東京都内でクリニックを経営している原さん(仮名)は、2年間の臨床研修ののち、大学病院に10年ほど勤務していました。
ところが、3年前にクリニックを経営していた父が病に倒れ、リタイア。突然、その跡を継ぐことになりました。
「外科医だった父は、40年ほど前、下町といわれるエリアでこのクリニックを開きました。職人さんが多いところで、毎日のようにケガをして来る患者たちがいて、そういう人からとても頼りにされ、感謝されている父の姿を私も小さい頃から見てきました。ですから、父の跡を継ぐと決めたのはごく自然な流れでしたね。」
とはいえ、原さんの専門は内科、それも糖尿病など生活習慣病の治療に長年携わっていて、外科での経験が乏しいことには当初、不安がありました。
「でも、いざ診療の現場に立ってみると、開業医は勤務医と違って、専門性ではなくて対応力が勝負なんだと分かってきました。標榜科以外の患者もちょくちょく来られて、専門領域でなくても丁寧に向き合っていけば大丈夫だと…。
もし、『この病気は当院では診られません』なんて言ったら、あっという間に『あそこは親切じゃない』といった噂が広がっちゃう。その点、私はもともと人と話をするのが好きなので、『なんとかやっていける』という確信が生まれました。」
一方、原さんにとって意外だったのは、思った以上に患者が少ないということ。
住民の高齢化が進むなかで周辺にはクリニックが増えていて、最近は医師会に所属しない医院も。患者の取り合いのようなことも起こっているそうです。
「付き合いのあるMRやMSの人たちから聞いた話によると、最新の診断装置を導入したので、職員にノルマを課しているなんてこともあるそうです。これからの時代、医師は診療だけを一生懸命やっていればそれでよし、とはいかないんだなと感じます。
その点、うちのクリニックは私に代わってから女性の患者が目立って増えています。開業医で女医の数はまだまだ少ないので、女性の患者を大切にしていきたいですね。」
原さんはほかにも、患者に気持ちよく来院してもらうため、待合室をリフォームして明るい吹き抜けにしたり、エントランスなどを完全バリアフリーにしたり、経営者としての経験を積んでいます。
開業医には「働けなくなったときの保障」がない
そんな原さんが不動産投資をスタートさせたのは、ちょうど父のクリニックを引き継ぐ話が進んでいたときのこと。
たまたま医師向けの不動産投資についての書籍を見つけて読んでみて、私にもできるかな?と思ったのがきっかけ。その後、もっと詳しい話を聞きたいと、医師専門の不動産コンサルタント会社へ。
「父が病気で倒れたのを見て、私自身いつ働けなくなるか分からないなと思い、将来への不安が芽生えていたんでしょうね。開業医は経営者ですが、勤務医と比べると働けなくなったときの保障はないも同然。それに、内科の自分が外科のクリニックを継ぐことについての不安もありました。将来のために本業以外の収入源を確保したり、貯金だけじゃなくてもっと効率よく資産形成したいっていう気持ちがあったんだと思います。」
でも、不動産投資は当面できないと思っていた…バイト先で信用情報に“傷”
さらに原さんは当時、アルバイト先でトラブルに巻き込まれていました。大学病院に勤めていたとき、病院の給与だけではゆとりある生活にはほど遠く、アルバイトをしていたのはよくある話。
ただ、そこから先がちょっとブラックなんです。
ある個人医院に院長として週1回勤務することになったのですが、原さんの知らないところで高額な機器のリースが原さん名義で契約されており、気がついたらリース会社から督促状が届いたり、クレジットカードの更新ができなくなったりしたのです。おまけに給与も未払いで1年間ただ働き、職員からは集団訴訟を起こされたりもしていました。
「その直後に父が病気で倒れ、クリニックの経営を引き継ぐなど、悪い連鎖が重なり、思い悩むことが多かったですね。振り返ってみると、私自身、社会のことを知らなさ過ぎたことを反省。本業(勤務医)がありながら、割のいいアルバイトも簡単にできる職業って、そんなにないでしょ。恵まれた環境にいることに気づかず、おまけに契約にまつわる法律上のリスクといった知識もなかったので、ある意味、いい勉強になりました。」
原さんは、こうしたトラブルがあったので、すぐ不動産投資を始められるとは思っていなかったとか。確かに、医師であっても信用情報は重要です。
しかし、原さんの場合、銀行側の信用情報に間違いがあり、弁護士なども使って信用情報を更新してもらうことで問題をクリア。さらに原さんには、それまで勤務医時代にコツコツと蓄えてきた貯金もそれなりにありました。
「意外に話はトントン拍子で進み、都内の新築区分ワンルームを購入することができました。それに、物件選定から、購入の手続き、賃借人の募集や管理まで、コンサルタントがサポートしてくれたので、クリニックの引き継ぎなどに全力投球することができて大助かり。クリニック経営もそうだけど、今の時代、なんでもトライ&エラーでやってみて、経験値を高めることが必要だなとつくづく思います。」
クリニック戦国時代、不動産投資で経営センスを磨く
経営において原さんの気掛かりは、地元周辺での医療機関同士の競争が激しくなっていること。先行きは楽観できません。
将来への不安を少しでも抑えるため、原さんは区分ワンルームから不動産投資を始めたわけですが、不動産投資の手法はとても幅広く、さまざまなパターンがあります。
「最近、興味があるのは、経営しているクリニックの建て替え。土地の広さに対して、現在の建物は小ぶりでかなり余裕があります。これを規模の大きなビルに建て替えて、1階をクリニック、2階以上を賃貸マンションにするといったことができないか考えています。あるいは、クリニックの経営と連動させる形で、一人暮らしになったり、体力が衰えたりした高齢者の方向けにサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)を設けるといったことも考えられるんじゃないかな。不動産投資はいわば賃貸業の経営者になること。不動産投資を通じて、経営視点を磨いていきたいと思っています。」
地域での医療提供に全力で取り組むのはもちろんのこと、社会の変化に応じた新しいサービスを生み出そうと挑戦する原さん。今後の活躍が期待されます。
不動産は「ミドルリスク・ミドルリターン」な投資対象
医師の方たちが資産運用を考えた際、最もお勧めなのが不動産投資であると私たちは考えています。不動産投資とはその名のとおり、不動産(土地や建物)を購入し、そこから利益を得る資産運用法の一つです。
土地には、建物の敷地になっている土地のほか駐車場や農地、山林、借地権などもあります。建物としては、一戸建て、アパート、マンション、オフィスビル、倉庫(物流センター)などがあり、マンションやオフィスビルについては1棟(建物全体)だけでなく区分所有といって住戸単位やフロア単位で売買される権利もあります。
不動産投資の基本的な仕組みは、購入した土地や建物を第三者に貸し出し、地代や賃料を毎月受け取ることです(図表1)。これを「インカムゲイン」といいます。
不動産投資ではもう一つ、購入してから一定期間が経ったあと、購入時より高く売却することで利益を得ることも可能です。これを「キャピタルゲイン」といいます。ただし、購入時より安く売却せざるを得ないこともあり、その場合はキャピタルロスが発生します。
不動産投資の大きな特徴は、銀行からの融資(借入)という他人のお金を利用できるということです。これを「レバレッジ」(てこの原理)といいます。自己資金がそれほどなくても、他人のお金を利用して、大きな投資を行い、その分、リターンも大きくすることができるということです。
株式投資での信用売買(最大約3.3倍)やFX(最大25倍)も一定のレバレッジを使えますが、不動産投資ではその比率がより柔軟です。個別の案件で異なりますが、極端な場合、自己資金が1%、融資が99%ということもあり得ます。
もちろん、融資には金利が掛かり、返済が必要です。ただ、融資の金利より購入した物件の正味のリターンのほうが高ければ、その差分が利益となります。つまり、不動産投資では、他人のお金(銀行からの借入)を使って不動産を所有し、他人(入居者)が払ってくれる賃料でその借入金を返済していくという仕組みを構築することができます。これが不動産投資の大きな特徴なのです。
不動産投資のもう一つの特徴は、土地や建物を貸して得られる賃料は、それほど大きく変動しないということです。アパートやマンションの場合、賃貸借契約の期間は一般に2年であり、その間、賃料は基本的に変わりません。
それに、不動産は一つひとつが異なり、それほど短期間に何度も売買されるわけではありません。価格の変動も非常に緩やかで、安定しています。こうしたことから、資産運用の方法として、不動産投資は「ミドルリスク・ミドルリターン」といわれ、どちらかというと中長期的なスタンスで、じっくり取り組むものとされているのです。主な資産運用の方法におけるリスクとリターンの関係は、図表2のようになります。
大山 一也
トライブホールディングス 代表取締役社長
植田 幸
資産コンサルタント、宅地建物取引士、AFP(日本FP協力認定)
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