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本記事は、ニッセイ基礎研究所が公開した欧州経済見通しに関するレポートを転載したものです。

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    物価・金融政策・長期金利の見通し

    見通し:インフレ率の急上昇は一時的と見込むが、長期化するリスクも高まっている

     

    物価については、11月のHICP上昇率は総合指数が前年同月比4.9%、コア指数が同2.6%まで上昇した[図表23]。このうち総合指数ではエネルギーの寄与が大きく、コア指数ではドイツで実施されていた付加価値税[VAT]引き下げが終了したという要因があるため※、インフレ基調としてはヘッドラインやコアの数値ほどは強くない。ただし、伸び率は統計データ公表開始以来の高に水準にあり、エネルギー価格やVATによる一時的な要因を除いたとしても2%台の伸び率に達したと見られる。

    ※ 税率で19%→16%(軽減税率は7%→5%)への引き下げを20年7月から12月まで実施。

     

    [図表23]ユーロ圏の物価上昇率 [図表24]ユーロ圏の物価・賃金上昇率
    [図表23]ユーロ圏の物価上昇率
    [図表24]ユーロ圏の物価・賃金上昇率

     

    エネルギー価格を除いた財・サービス物価の上昇率はいずれも2%台後半に達しており、さらにコロナ禍期間中に物価が低迷したベース効果を除いても高い水準にある(図表24、コロナ禍の影響を除くために2年前比を太線で記載、20年に実施したドイツの付加価値税減税の影響も除かれている)。このうち過去と比較して伸び率が急加速しているのは財価格であるが、これは原材料不足などの供給制約によってもたらされている面が大きいと見られる。また、サービス価格も足もとで上昇基調にある。こちらは経済活動の再開で需給ギャップが縮小したことで、コロナ禍前の伸び率まで回帰したと考えられる。

     

    [図表25]ユーロ圏のエネルギー価格水準 [図表26]欧州の天然ガス価格[オランダTTF]
    [図表25]ユーロ圏のエネルギー価格水準
    [図表26]欧州の天然ガス価格[オランダTTF]

     

    このうち、財価格は来年以降は生産力の向上と供給制約の緩和により次第に低下していくことが見込まれる。一方で、サービス価格は賃金の動向に大きく左右されるだろう。現在は、労働時間に見られるように需給ギャップが若干ではあるが存在しており、賃金上昇圧力は強くないと考えている。そのため、賃金と物価が相互に上昇することで高インフレが続く可能性は高くないと見ている。ただし、今後賃金上昇圧力が高まることで高インフレが長期にわたって続くリスクは以前よりも増していると言えるだろう。

     

    また、エネルギー価格にも注視が必要だろう。足もと、エネルギー価格の寄与だけで(他の物価が上昇しなくても)物価上昇率が2%を超える状況にあるが、それでも資源高が消費者物価には十分転嫁されていないと見られる[図表25]。高騰している資源価格がこのペースで上昇を続ける事は考えにくいが、資源価格が高止まり、消費者物価への転嫁が続くだけでもインフレ圧力は長期化する可能性がある。来年以降、エネルギー価格は足もとの高水準から低下することを見込んでいるが、気候変動対応の移行期にあって旺盛なガス需要続くなど、価格の高止まりが懸念される状況にあることはリスク要因と言える[図表26]。

     

    ECBは物価の一時的な目標からの乖離を許容しているが、高インフレが長期に続けば中央銀行の引き締め観測は高まることから、金利上昇やそれを受けた実体経済への下押し圧力が生じるリスクがある。ただし、賃金インフレとエネルギー価格の高止まりのいずれの場合においても、インフレ目標を大きく上回る伸び率が長期間にわたって続く可能性は低いと見ている。

     

    メインシナリオとしては年平均インフレ率は21年で2.6%、22年で2.4%とインフレ目標を上回るものの、23年には1.6%に低下する予想している[図表22、表紙図表2]。

     

    見通し:金融政策正常化は段階的に行われると予想

     

    ECBはコロナ禍以降、大規模な流動性供給と量的緩和策を続けている。政策の主軸はPEPP[パンデミック緊急購入プログラム]および、金利を優遇した貸出条件付資金供給オペ[TLTROIII]であり、前者は総額1.85兆ユーロの資産購入を少なくとも22年3月まで実施、後者は最大2年間にわたって▲1%の優遇金利を受けられる流動性供給策を21年12月まで実施する予定となっている。

    ※ コロナ禍前の資産購入策[APP]との違いとして、ECBは、PEPPは各国国債の購入比率として、出資比率[capital key]にもとづく購入を基準にしているものの、一時的にそこから乖離する柔軟性も持たせている。このほか、ECBは購入ペースや資産クラス[国債、社債などの資産種類]についても明確に基準を設けておらず、柔軟性がある点を強調している。さらに、[投資適格級でない]ギリシャ国債の購入も許容している。

     

    ラガルド総裁は理事会で、PEPPについては3月に終了する予定であると明言する一方で、具体的な政策手段については12月の理事会[16日に開催予定]に議論するとして検討を先送りしており、現時点でも当局者からの発信は少ない。

     

    足もと物価は急上昇しているが、ECBは現在の物価上昇が一時的であるとの見解を堅持しており、引き締めへの急転換はされないと考えられる。メインシナリオでは正常化は「良好な資金調達環境」を維持しつつ、段階的に進められると見ている。

     

    ラガルド総裁の発言通りPEPPは来年3月に予定通り終了するものの、購入額が急激に縮小することを避けるために既存のAPP(資産購入プログラム、毎月200億ユーロ購入)を増額し、またAPP設けられていた1銘柄当たりの保有上限については緩和されると見ている。PEPPでは投機的格付けの国債(ギリシャ国債)購入や国別シェアの出資比率からの乖離も認められていたため、この柔軟性が今後の政策にも引き継がれるかが注目されるものの、メインシナリオでは平時の購入プログラムに戻すという観点から、これらの制限は再び課されると想定した。

     

    また、流動性供給策は、現在のTLTROIIIで実施されているような金利優遇策は終了し、優遇が限定的な流動性供給策が実施されると見ている。

     

    長期金利は、米国の利上げ観測の高まりを受けて夏頃からは上昇したが、感染再拡大やオミクロン株の流入でリスク回避的な下落圧力も見られる[図表27]。当面は不透明感が強い状況が続くと見られるが、先行き、経済正常化と回復が進展すれば再び金利上昇圧力は強まるだろう。ただし、ECBは金融政策の正常化を緩やかに進め、短期的な利上げも実施しないと見られることから長期金利の上昇ペースは抑えられるだろう。その結果、ドイツ10年債金利は21年で平均▲0.3%、22年および23年は平均▲0.1と推移すると想定している[図表22、表紙図表2]。

     

    [図表27]独・仏・伊の国債利回りと期待インフレ率
    [図表27]独・仏・伊の国債利回りと期待インフレ率

     

     

    伊藤 さゆり

    高山 武士

    ニッセイ基礎研究所

     

     

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    本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
    本記事は、ニッセイ基礎研究所が2021年12月10日に公開したレポートを転載したものです。

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