他院で認知症と診断された患者…改めて診察すると
検査や実験などで、何度受けたとしても近似の結果が得られることを「再現性が高い」といいますが、こうした心理検査は、設問は同一であっても検査を行う際の条件が一定になりにくく、再現性は高くないといえます。簡単にいってしまえば「結果がぶれやすい」検査なのです。
にもかかわらず、たった1回の検査で「認知症のようですね。薬を出しておきましょう」では、まさに誤診の温床といっても過言ではありません。
実際、私のところに「長谷川式15点。認知症疑い」など、紹介状に心理検査の点数が低い旨記載のある患者が来て、改めて診察したら、認知症ではなく老人性うつだった、といったケースはたくさんあります。認知機能が低下をきたす病気は認知症だけではないのです。
心理検査はあくまでも認知機能を客観的に測る「道具」であり、使う側のスキルが伴って初めて、正しい診断に活かすことができます。
診断の一つの基準であり、参考になりこそすれ、決して「認知症判定機」ではないことを、一般の方にも知っておいていただきたいと強く思います。
なお、心理検査には長谷川式のほか、MMSEと呼ばれるものも使われることがあります。長谷川式は基本的に口頭で一問一答していきますが、MMSEは図形や文章をかかせる設問があり、記憶力や注意機能だけではなく言語能力や視覚認知(目で見たものを描く能力)も把握できるとされています。
両者は共通の検査項目もあり、一人の患者に両方実施する施設もあれば、片方のみ実施する施設もあります。両方行うと、アルツハイマー型認知症の場合は長谷川式の点数が低く出る傾向があります。
というのもアルツハイマー型では図形や字を理解する視覚認知が落ちにくいからです。
私は、長谷川式とMMSEの両方を行います。専門的な立場としては、この視覚認知の機能低下を把握することは、レビー小体型認知症の可能性を知るうえで重要と考えるからです。
レビー小体型の場合、長谷川式に比べMMSEのスコアが低く出やすいことが分かっていますので、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症を鑑別するには、両方の検査を行うことが有用であると考えます。
磯野浩
医療法人昭友会埼玉森林病院院長