心理検査での決めつけは「誤診と疑うべき」理由
今はネットにも設問内容が公表されていますので、もの忘れが気になった人が試しに取り組んでみることも多いようです。
「28点あるから問題ない」「21点でぎりぎりだから危ないかも」などと一喜一憂しているようですが、では21点なら認知症ではなく、20点では認知症である、といわれたら、それはちょっと違うのではないか、と、誰もが首をかしげるはずです。
また、一度やってみて19点しかとれなかった人が、翌日もう一度やってみたら22点とれたとします。医師から22点とれたのだから認知症ではない、といわれても、当人には不安が残ると思います。
この、一般の方でもちょっと考えれば分かるような心理検査の限界が、なぜか医療機関では不問とされ、いうなれば一発勝負で出た結果が絶対であるかのように扱われているのが現実なのです。
心理検査は、スクリーニング(ふるいわけ)としては効果的といえます。スクリーニングとは、大勢の対象者から一定の条件で、「病気の可能性がある人」を選別することです。健康な人が受ける「がん検診」もスクリーニング検査の一つです。一次検診で「要再検」になった人はがんの可能性ありと選別された人ですが、がんと確定されたわけではありません。より詳しい検査で調べる必要があります。
認知症における検査も同じ考え方です。つまり点数が低かったからといって認知症とは確定できないのです。
さらに、こうした心理検査は受けるときの本人の心身の状態や環境によっても結果が大いに左右されます。医師とのコミュニケーションに問題なく、かつ検査に集中できる状況であるとの条件がそろっていないと、本来の認知機能が検査に正しく反映されるとはいい難いのです。
認知症の診療では、本人が家族に手を引かれ、いやいや受診してくるケースが少なくありません。「俺はぼけてなんかいない」「なんでこんなテストを受けなきゃならないんだ」などと、最初から拒否感を示されやる気のない人も多いのです。そんな態度のままでは、医師が質問しても、ふてくされて適当に答えてしまうのが目に見えています。
でも、仮に同じ人が、旧知の信頼している医師にかかったら、検査結果は違ったものになる可能性は高いです。そのくらい、心理検査は外部の影響を受けやすいのです。また、たとえ本人が受診を嫌がっていなくても、たまたまその日体調が悪かったり、アパシーと呼ばれる意欲が低下している状態だったりすれば、いつもは難なくできる返事に詰まったりすることもあるはずです。