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自力で強力なブランド力を育む道
こうした巨大エコシステムのなかには、もう少し多くのデータをくれたり、ある程度の自主性を認めてくれたりするところもあるが、結局は他人の家なのだ。ただのテナントに過ぎないのだから、その家のルールに従わなければならない。ついでに言えば、ルールはいつなんどき変更されるかわからない。
第2に、販売データが、こちらの意に反して、あるいは知らぬ間に利用されることがある。独自商品が模倣されはしないか。顧客との関係を悪用されないか。そもそも、自分の店で購入してくれる客といっても、いったい誰の客になるのか。どの懸念ももっともなことだ。
もっと言えば、出店者は、巨大エコシステムを構成する駒に過ぎず、腐敗に巻き込まれやすい。たとえば、2020年9月、ワシントン州で6人の被告が起訴された。アマゾンの従業員に10万ドルの賄賂を渡す見返りに、1億ドル相当の取引上の便宜を図ってもらった疑いだ。起訴状によれば、アマゾン従業員は賄賂をもらって、次の行為に及んだという。
<アマゾンマーケットプレイスでの販売がアマゾンによって停止または完全に阻止されていた商品および販売業者のアカウントを復活させる手助けをし、(中略)顧客の安全に関わる苦情があったために販売停止となっていた健康補助食品、発火の恐れありとされた家電製品、知的財産権侵害の消費財、その他製品を不正に復活させた。>
さらに、賄賂を受け取ったアマゾンの内部関係者は、被告のライバルに当たる販売業者のアカウントを停止した疑いもある。この件についてアマゾンは、あくまで単発的な事件であって、社内にはそのような不正行為を検出するシステムがあると付け加えている。真実はアマゾンの主張どおりなのか定かでないが、この一件で他人のチャネルに依存すること自体のリスクが浮き彫りになった。
さて、残る選択肢は、自力で強力なブランド力を育む道だ。独自のブランド環境を構築して顧客を取り込み、危険な怪物企業から安全な距離を確保するのだ。これは、言うは易く行うは難かたしだ。
私の友人で、『The Experience Economy』(邦題『経験経済―エクスペリエンス・エコノミー』)の著者でもあるジョセフ・パインは、次のように指摘する。消費者が求めているのは、「徹底的な時間の節約」か「有意義に過ごす時間」のどちらかである。消費者のニーズを見事に言い当てているではないか。せっかくなので、この発想に乗じて、「徹底的なカネの節約」か「有意義に使うカネ」という構図も追加したい。
時間やカネの「節約」の面では、怪物企業や怪物ジュニア(ミニマーケットプレイス)が優っていることはまず間違いない。いずれも過去20年間、圧倒的な品揃え、徹底した利便性、(かけ声だけかもしれないが)毎日最低価格を売りに価値・魅力を訴求してきた。このような怪物企業が得意とする「節約」という土俵で戦おうとしても、まず勝ち目はない。
とすると、勝ち目がありそうな土俵は、消費者に有意義な時間と支出を味わってもらうことだ。顧客1人ひとりに時間もカネも有意義に使ってもらえれば、自主独立路線で永続できる価値あるブランドの座を獲得できる。
問題は、そこにたどり着く方法だ。
ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント