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自主独立路線を進んでも生き残れるのか
アメリカの大手小売りチェーンには選択の余地はない。手をこまねいていれば、ただただ怪物の餌食になるだけだ。
結局、どういうことになるのか。社会が工業化時代からルビコン川を渡ってしまった以上、小売業界もまったく新しい時代のビジネスに突入したのである。それは、一握りの怪物企業が支配する時代である。
つまりは国境なき巨大ECサイトが消費者の日々の暮らしや活動のかなりの部分を支配するのである。こういった怪物企業は、膨大な数の商品を提供するだけにとどまらず、従来では考えられなかった製品・サービスの領域にも次第に手を広げていく。
飽くことを知らぬ拡大欲を満たそうと、銀行や保険、ヘルスケア、教育、輸送など無防備な業界に攻め込むはずだ。顧客へのサービスが十分に行き届いていないうえに、とてつもないマージンが期待できる分野である。これまでに築いた巨大な顧客基盤を生かし、それぞれの分野の顧客対応をデジタル化し、時代に合わせて進化させ、徹底的に見直すはずだ。
一方、迎え撃つ側のターゲットやコストコ、カルフール、テスコといった大手ブランドは、攻め来る怪物企業との絶え間ない戦いに突入する。こういった小売業者は、余力のあるうちに、利便性や地域密着をキーワードに差別化を図り、サードパーティマーケットプレイスの導入・拡大を通じ、自社のエコシステムを強化して怪物企業のミニバージョンをめざすはずだ。
一部の小売業者は自力で成長を遂げ、頂点に駆け上って怪物の仲間入りを果たす可能性がある。それ以外は消えゆく運命にある。いずれにせよ、パンデミックの余波のなかで、市場競争は近代の小売業界では例のない熾烈な戦いになるだろう。
頂点に立つ一握りの怪物企業と、それに追随した新進の怪物ジュニアが支配する市場では、他のブランドや小売業者が取りうる道は1つだ。いくつかある巨大エコシステムのうちの1つでも複数でも全部でもいいから内部に飛び込むか、それとも独立独歩を貫き、怪物の陰で繁栄とはいかないまでもひっそりと生き残るかのいずれかである。どちらの道にも大きなリスクとメリットがある。
アマゾンやウォルマート、京東、アリババといった怪物に追従した場合の最大のメリットは、言うまでもなく範囲とボリュームとインフラである。アマゾンの市場シェアは驚異的だし、ウォルマートの店舗網が持つカバー範囲は羨望の的である。アリババが誇る技術力とデータハイウェイは、ほとんどの企業に真似のできない水準に達しているし、京東の物流・配送力は、テンセントとの戦略的なパートナーシップも手伝って、実に魅力的な環境ができている。
ただし、こうした怪物と寝るなら、かなりの後ろめたさを抱え込むリスクを覚悟しなければならない。まず何よりもオンラインでの存在感という意味では、我が物顔で振る舞うことはできなくなる。前出のECサイトの開設支援を手がけるショッピファイのCOO(現・社長)ハーレー・フィンケルスタインは「他人のプラットフォームに間借りするようなもの」だと指摘する。