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この先生と決めた患者はその医師から離れない
(2)継続受診先選択で患者が重要視する要因
継続受診先選択では、第1に、患者の「問題を解決」することが最重要である。実務では本質機能を考え、早期に診断を確定し、適切な治療を施すことが継続受診の意思決定にとり不可欠である。また、患者の訴えに対しては、ポジティブに反応し、病状の改善ではQOL の向上も考慮すべきである。同時にデータをわかりやすく活用し、回答を曖昧にせず、疾患名も明確に伝えることが求められる。これらは結果的に信頼につながる。
第2に、「患者の理解者」になることは、信頼への第一歩である。患者の特徴や反応を考え、新しい治療法の提案や薬の把握を行い、日常的な医療管理を積極的に行う。それにより、患者は医師を理解者だと認め、直観的に思いを強めていく。医師は患者のデータや状況を適正に把握し、医学的情報だけではなく、患者の日常的な情報を記録するなど、患者にポジティブな興味を持つことは、継続的な受診先選択の鍵となる。
これらが【医師への信頼】を経由して【医師に任せる】思いにつながる。その結果、患者は、「遠くても待ってでも、この医師に診てもらいたい」との思いを抱くことになる。
(3)受診先選択における患者の情報処理について
初回受診先選択では、熟考的思考で情報処理が行われていた。また、継続受診先選択では、最初、熟考的に検討するものの、多くが直観的思考による情報処理により、意思決定が行われていた。Kahneman(2011)は、直観的思考が困難に遭遇すると、熟考的思考が応援に駆り出され、問題解決に役立つ緻密で的確な処理を行うことを指摘している。
初回受診先選択では病気がわからないなか、直観的思考では適切な判断できず、熟考的思考により、身近な人からの評判や推薦、物理的条件などを探索し、意思決定を行っていた。一方、継続受診先選択では、熟考的思考で情報処理しながらも、多くは直観的な意思決定を下していた。
実務において、医師は往々にして初回時、継続時に関わらず、同じアプローチで患者に情報提供を行い、コミュニケーションをはかるケースが多い。診療所における継続受診先選択の意思決定では、直観的な情報処理を考慮して、患者の直観に訴求できる対応と情報提供が必要である。機能だけを合理的に訴え続けても、患者の心には響かない。
(4)まとめ
昨今では、経済学が想定してきた合理的経済人モデルが、人々の実際の経済行動を説明できずにいる。非合理的な行動や意思決定のエラーであるバイアス、バイアスを発生させる簡易な思考パターンのヒューリスティックスの実証的な検討は(山根,2016)、何より患者のインサイトを探る重要な鍵となる。患者の欲求や行動、心情を理解し、適切な医療マーケティングを行うためには、患者インサイト研究が重要である。
最後に、患者が医師に任せる思いに至った時、熟考的思考の情報処理を覆し、直観的思考の情報処理が行われていた。遠くても待ってでもこの医師に診てもらいたいと思い、継続的な受診につながる。「ここが私の場所である」と直観的思考で認識した患者は、その医師から離れることは決してない。
杉本ゆかり
跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長