なぜ都心以外はマンション建て替えが不可能なのか?
東京の真ん中にあるマンションなら、この問題を易々(やすやす)と解決できたりする。その仕組みを説明すると、以下のようになる。
まず、建て替えがうまくいくのは、容積率が余っている場合がほとんどだ。容積率とは、その土地に建てられる建物の床面積が土地面積と比べてどれくらいになるか、という比率のことだ。これは基本的に市区町村などの行政が定めている。
例えば面積が1000㎡の土地の容積率が400%だったとすると、その土地には床面積の総計が4000㎡までの建物が建てられることになる。
仮に港区高輪にある容積率400%の地域に、敷地面積1000㎡で築50年超のマンションがあって、たまたま容積率が半分ほど余っていたとする。つまり、その土地では延べ床面積が4000㎡の建物までが建築可能だけれども、その老朽マンションの現況床面積は2000㎡だったという場合だ。
この場合、新しく床面積が4000㎡のマンションに建て替えても、元の住民に前と同じ面積の住戸を配分したうえで、残り2000㎡分の住戸を誰かに販売することができる。
港区高輪あたりだと、新しく建築した2000㎡分のマンション住戸がけっこうな値段で販売できるので、残り2000㎡分の建築費までそこから出すことができる。元の住民は1円も払わずに、ピカピカの新しいマンションを手に入れられることになる。
相対的に元の住民が所有している敷地の持ち分は半分になってしまうが、それでも新しいマンションがタダで手に入るわけだから、計画に反対する人はほとんどいない、というわけだ。
ところが、築50年超のマンションが港区高輪ではなく、東京都下の郊外某市にあったとする。仮に私鉄の最寄り駅から徒歩12分、容積率を調べてみると、まったく余っていなかったら……。
この場合、このマンションを建て替えようとすると、費用はすべて現在の区分所有者の負担となる。今の建築費相場観から推計すると、マンションを新たに建て替えるには取り壊し費用も含めて、1戸当たり約2500万円が必要となる。他に、建て替え期間中の仮住まい費用まで発生する。
「そんなお金はないから、建て替えなくてもいい」
建物が老朽化しているということは、そこに住む区分所有者も少なからず高齢化している。特に郊外型の分譲マンションは、区分所有者の入れ替わりが少ない。新築時から暮らしていて高齢化した方の中には、建て替え費用を負担できる人もいれば、年金でギリギリに暮らしている人もいる。
こうして区分所有者同士で建て替えについての意見が賛成と反対に分かれた場合は、どうなるのか。現実的には、ほとんど建て替えは不可能となるのだ。
現行の区分所有法をはじめとした諸法規では、全区分所有者の5分の4が賛成すれば、建て替えを決定することが可能である。最後まで反対する人の住戸は、強制的に買い上げることができるという規定もある。しかし、そこまでして建て替えているケースは稀(まれ)である。
だいたいからして、各自が約2500万円以上を負担する建て替え決議案に、全区分所有者の5分の4が賛成するケースは少ない。というより、私は今までにそのような「全額負担」で建て替えたケースを知らない。
建て替えたら、負担した約2500万円よりもはるかに資産価値評価が高い住戸を得られるようなケースなら、5分の4まで賛成者を増やせるかもしれないが、先に上げたように「東京都郊外の00市、駅徒歩12分」の場合、約2500万円以上の資産価値評価になるケースは少ない。今後はさらに、こういった条件が厳しくなりそうだ。
榊 淳司
住宅ジャーナリスト