日本の重工業は縮小していくが…「新たな」可能性
追い打ちをかけるように、2020年5月に中国が経済回復から粗鋼生産量を過去最高レベルまで戻したそうです。2008年のリーマンショックから景気回復させる際にとった政策と似たように、中国の経済回復初期に粗鋼生産増加は多くみられるのかもしれません。
しかも日本の高炉大手3社は、海外市場に製造工程はあまり持っておらず、且つ世界一の消費地であり、且つ供給国でもある中国が低コストで大量生産を行い、国内市場で売却できない量は海外市場へ輸出し、国際市場の価格下方圧力となるわけです。
半導体のセクションのように、中国国策による産業の高度化の流れは、この革新が大きくは生まれにくい鉄鋼業界でも同様に推進されており、日本の高炉型鉄鋼企業は国内での需要減、海外市場での日系顧客からのシェア減少となると、今後の持続的な収益力に更なる下方圧力がかかっていくように感じます。
さらにこの度のコロナ禍での国内外の経済低迷が長引きし、世界一の市場である中国での過剰生産設備は維持(しかもコロナ禍で増産まで転換)されると見られている中で、日本の鉄鋼トップからのコメントが的確であるものの、図体が大きいだけに何とも動きにくい、という同社経営の難しさを象徴しているように感じました。
『構造改革を遂行し、生産量が増えなくても収益を確保できる体質をつくるしかない。単純に能力を減らして量を絞るだけでは解決策にならない。利益が出ない設備については更新投資を減らせるように集約し、投資の選択と集中を進める。』※
※ 『JFEHD社長 「コロナ対応、さらに合理化の可能性」』https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61536330V10C20A7X13000/
日本での高コスト・高技術化・人口減など様々な逆風の中、国内での企業・施設再編などを通じて耐え忍んできた鉄鋼業界。しかしグローバルの過剰設備状態や人口動態、業界変動に伴い、先の石油業界も含めて、特に高炉型鉄鋼企業はかなり大きな問題が突き付けら、具体的な問題の影響は様々なところにあると思っています。たとえばですが、
①更なる縮小均衡トレンドの加速に伴う地方経済の悪化
多くの製鉄所は京浜や四日市など所謂工業コンビナート近くや地方都市に多く設置され、一般的にその現地経済や雇用を支えてきた、のですが、製鉄所休止に伴い、その現地のエコシステムが崩れるのでは、と思います。(地方自治体もこれから加速的に財政や人材的にも悪化するのでは?と危惧されます)
②更なる業界再編の可能性
1つの業界に3企業(通信やコンビニなど)にまとまる、といった話も聞きますが、そのような流れが高炉・電炉問わずに鉄鋼業界(日本製鉄と神戸製鋼vsJFE、とか)なのか、非鉄業界も巻き込んで、促進されるのではないでしょうか。
鉄鋼業界が今後どうなるかわかりませんが、国内生産の縮小トレンドにより、どこまで(生産能力やノウハウなど)国益として守るべきか、という人口減・市場縮小の日本におけるこのような大規模製造業の立ち位置が重要だな、と感じています。
日本経済を支えてきた鉄鋼業界のような重工業(製造業)は、今後も縮小し残ると思いますが、同時に業界として価値を見出してもらいにくくなっている、という現実もあり、既に高効率、生産性向上では解決できない流れは遅かれ早かれ他の製造業にもやってくる、でしょうし、業界内再編以上に、異業界との再編があると思っています。
重工系や機械などの企業、IT や通信、航空・ロケットなどもあるのかもしれません。少なくとも、比較的大きなLeapForward が求められている気がします。
後藤康之
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
国際公認投資アナリスト(CIIA)