高裁は立ち退き請求を棄却
本件の事例は、東京高等裁判所平成24年12月12日判決をモチーフにした事例です。
この事例で、当初、地方裁判所は賃料の約1年分程の立退料の支払いと引き換えに、賃借人に立ち退きを命じましたが、高等裁判所はこの判決を覆し、賃貸人からの立退の請求を棄却しました。
この事例で、高裁は、建物の老朽化の程度や賃貸人側が建物を処分することの必要性と、賃借人側の居住継続の必要性を検討した上で、賃貸人側が立退料を提供したとしても解約の「正当事由」は認められない、と判断して、明渡請求を否定しました。
裁判所は、まず、賃貸人側の事情について
と述べ、売却の方が利益があると判断しました。
しかし、老朽化の程度を踏まえた建替工事の必要性については、築40年経過していることや、耐震診断の上部構造評点が1.0以下であることを踏まえつつも、以下のように述べて否定しました。
「賃貸人は、本件建物は古く、耐震性の点からも建替えの必要があると主張する。確かに、本件建物は、昭和47年にA社の社宅用として建築され、建築後約40年を経過しているが、
しかし、本件建物に居住するには格別の支障がなく、併せて本件建物の平成22年度の固定資産税評価額が53万2501円とされていることを考慮すれば、本件建物が大規模な修繕をしなければ居住できない状態にあるということはできない。
次に、耐震の面から本件建物を建て替える必要があるのかについてもみてみることにする。
木造建物においては、上部構造評点が0.7以上1.0未満であると地震の際倒壊する可能性があると判定されており、そうだとすると、本件建物も、地震の際倒壊の可能性があることは否定できない。
しかし、本件建物の上部構造評点は0.96と1.0に近い数値である上、南北方向の耐力壁の補強により改善できるとされていることによれば、本件建物についての耐震工事は比較的容易であるというべきである。
そして、その費用負担は、賃貸人である被控訴人だけが負担するのではなく、賃料の増額等により賃借人である控訴人と応分の負担をすることで対処することも可能である。したがって、本件建物の上部構造評点が1.0を若干下回っている蓋然性が高いことをもって、本件建物の賃貸借に重大な影響を及ぼす事情があるとまでは言い難い。
以上によれば、本件建物は古く、耐震性の点からも建替えの必要があるとの被控訴人の主張は理由がない。」
上記に加えて、裁判所は、賃借人側の事情については、
と述べた上で、結論として、
と判断しました。
さらに、賃貸人は、賃料の約2年分の立退料の提供も申し出ましたが、この点についても、裁判所は、
と述べて、立退き料を提供しても正当事由は認めない、と判断しました。
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