(※写真はイメージです/PIXTA)

経営者の夫が病死。専業主婦だった妻は会社を承継して苦労を重ねますが、資産家の父親のサポートでなんとか経営を立て直します。ところが、父親が死去したことで状況は一変。いつの間にか、姉がすべてのイニシアチブを握っており…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

サポートしてくれた父が逝去、不動産は姉の名義に

ところが、中田さんをバックアップしてくれた父親が亡くなりました。すると突然、中田さんの姉から、父親は公正証書遺言を作成していると聞かされました。遺言書によれば、中田さんの会社が入っている不動産はすべて姉名義になるため、以後は家賃を請求するというのです。

 

中田さんの父親は代々の地主で、複数の不動産を所有する資産家です。遺言の内容を確認したところ、驚くべきことに、姉と、父親の養子となった姉の息子にすべてを相続させると書かれており、まだ存命中の中田さんの母親、そして中田さんは、相続人から排除するとも書かれていました。

 

驚いた中田さんは弁護士事務所に駆け込み、不動産の登記前に相続人排除の取り消しと遺留分減殺請求を起こしたそうですが、3年経過したいまも決着していません。依頼した弁護士は泰然と構えていましたが、その間に不動産の登記もされてしまったことで不安が募り、筆者の事務所を訪れたとのことです。

不動産が第三者に渡れば、会社経営にも不安が

生前の父親は、普段から会社の不動産は中田さんに相続させると公言していたため、なんらかの打つ手はあったのではと思われますが、いまとなっては簡単ではありません。また、当初依頼した弁護士との間にも、認識の温度差があるようです。

 

最近では、中田さんの会社が入っている土地建物を買取るよう、姉が迫ってくるそうです。もし姉が不動産を売却し、人手に渡ることになれば、会社の存続に影響を及ぼす可能性もあります。現在も対抗手段を模索中ですが、中田さんが姉から買い取ることが第一と思われ、姉の狙いどおりにするしかないかもしれません。

 

不動産の名義は非常に重要で、とくに会社の場合は、自社での保全が必要だといえます。今回のようなリスクを考え、当初より、父親名義にしない方法も吟味する必要があったといえるでしょう。そもそも中田さんを心配していた父親が、なぜあのような内容の遺言を残したのか等、わからない点もありますが、いまとなっては知る由もありません。現状は姉と妹による協議が続行中です。

生前対策ができれていれば…

そもそも今回の問題は、会社名義の自社ビルを父親名義にしたところから起きています。筆者がそのときにアドバイスできたのであれば、名義は会社のままとして父親から借り入れをし、中田さんが会社に貸し付ける形を取る方法を提案しました。

 

父親の借入は相続財産ではありますが、返済額を少しずつ贈与してもらったり、貸付金は免除するなど遺言書を作成してもらえば、自社ビルは死守できたといえます。その当時に適切な方法をアドバイスする専門家がいればよかったのにと思うところです。

 

今後は、姉からビルを買い取るか、金額によっては移転するかを検討していくことになりますので、継続してアドバイスをしていきます。

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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