建物オーナーに工事ミスの責任はない
この点について、裁判所は、建物オーナーの責任は否定しました。
その理由としては、以下の通り述べています。
「被告A社(注:建物オーナー)は,原告X1(注:9階居室の賃借人)に対し,本件賃貸借契約に基づき本件居室を使用させる義務を負い,原告X1が,本件事故により本件居室の使用を妨げられたことは認められるが,本件事故が被告A社の同契約に基づく債務の不履行であるとは認められない。
すなわち,被告A社が被告B社(注:リフォーム会社)との間で本件請負契約を締結して,被告B社が1004号室のリフォーム工事を行い,その際,同工事従事する者が本件事故を起こしたことは,前記のとおりであり,被告B社は,本件請負契約に基づき上記工事を行っていたものであって,本件請負契約は,同社と被告A社の間に,被告A社の原告X1に対する本件賃貸借契約に基づき本件居室を使用させる債務の履行を被告B社が補助する関係があることを理由付けるものとはいえず,被告B社による上記工事に従事した者が本件事故を起こしたことをもって,被告A社の本件賃貸借契約に基づく債務の不履行があるということはできない。」
リフォーム会社の不手際についてまで建物オーナーが無条件で責任を負わされるというのは、建物オーナーにとって酷な場合が多いと言えますし、賃借人側の建物オーナーに対する責任追及の理屈も少し無理があるので、上記の裁判所の判断は、至極妥当な判断と言えます。
なお、本件では、リフォーム会社に対する損害賠償として、損害の実額の他、賃借人がこの漏水事故によって仕事の受注ができなくなったこと(仕事用の機材の故障により)、自律神経失調症、うつ病等で治療を余儀なくされたなどの事情が考慮され、賃借人とその同居人に対して、合計230万円の慰謝料が認められています。
この種の事案の慰謝料としては比較的高額にも思われますので、この点でも参考になる事例です。
※この記事は2021年8月6日時点の情報に基づいて書かれています。
北村亮典
弁護士
こすぎ法律事務所