借主が原状回復をせず勝手に退去…回復工事終了までの賃料は請求できるか【弁護士が事例で解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

建物を原状回復させずに鍵を返却してきた借主に対して、貸主が鍵の受取を拒否。原状回復工事の終了後に鍵の返却を受けた場合、工事期間中の賃料は借主に請求できるのでしょうか。賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が、実際にあった裁判例をもとに解説します。※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

 

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明渡義務と原状回復義務の関係は、法で定まっていない

【ビルオーナーからの質問】

当社が所有しているRC3階建てのビル1棟を法人に賃貸していました。

賃借人から契約解除の申し入れがあり、今年の1月末に退去したといって建物の鍵の返却をしてきました。

しかし、この時点で原状回復工事が全くおこなわれていなかったので、鍵の返却は拒絶し、その後3ヵ月程度かけて原状回復工事をおこない、工事終了した今年の5月20日に鍵の返却を受けました。

こちらとしては、原状回復が終わった時点で明渡しがされたものと考え、5月20日までの賃料の支払いを請求したところ、賃借人から

「1月末までに退去して鍵も返そうとしたのだから、賃料の支払いも1月末までだ」

との主張がありました。

どちらの主張が正しいのでしょうか。

 

【説明】

2020年4月1日に施行された改正民法の621条により、賃貸借契約終了時における賃借人の原状回復義務が明確に規定されました。

 

民法621条

賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。

 

ただし、この規定をみても分かる通り、

 

「賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。」

 

と規定されているだけであり、本件で問題となっている「賃借人が原状回復義務を履行するまでは、明渡し(契約の終了)は認められず、賃料支払義務を負うのか」という点については明らかではありません。

 

そのため、「建物明渡義務と原状回復義務が別個の義務であるか」が問題となるのです。

 

また、国土交通省が公表している賃貸住宅標準契約書の書式においても、

 

(明渡し)

第14条 乙は、本契約が終了する日までに(第10条の規定に基づき本契約が解除された場合にあっては、直ちに)、本物件を明け渡さなければならない。

2 乙は、前項の明渡しをするときには、明渡し日を事前に甲に通知しなければならない。

 

(明渡し時の原状回復)

第15条 乙は、通常の使用に伴い生じた本物件の損耗及び本物件の経年変化を除き、本物件を原状回復しなければならない。ただし、乙の責めに帰することができない事由により生じたものについては、原状回復を要しない。

2 甲及び乙は、本物件の明渡し時において、契約時に特約を定めた場合は当該特約を含め、別表第5の規定に基づき乙が行う原状回復の内容及び方法について協議するものとする。

 

と記載されており、明渡義務の履行と原状回復義務の履行の関係が明確ではありません。

 

こすぎ法律事務所 弁護士

慶應義塾大学大学院法務研究科卒業。神奈川県弁護士会に弁護士登録後、主に不動産・建築業の顧問業務を中心とする弁護士法人に所属し、2010年4月1日、川崎市武蔵小杉駅にこすぎ法律事務所を開設。

現在は、不動産取引に関わる紛争解決(借地、賃貸管理、建築トラブル)、不動産が関係する相続問題、個人・法人の倒産処理等に注力している。

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著者紹介

連載現役弁護士による「賃貸・不動産法律問題」サポート相談室

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