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薬価をさげれば製薬会社の利益が減る悪循環
日本の製薬産業が元気をなくしている問題は、社会保障の仕組みにも原因があります。
令和3年(2021)度予算の一般会計に占める社会保障関係費の割合は、33.6%で、一般的な税金の使途のおよそ3分の1にあたります。社会保障関係費の内訳で大きなものは年金と医療で、両方合わせると約75%となっており、いずれも年々増え続けています。
一方、政府の税収は無限に増えるわけではありません。無理矢理取ろうとすれば、経済活動が停滞して国民生活が成り立たなくなってしまいます。すると、増え続ける部分をどう削ろうか、抑制しようかという話になります。医療費の場合、税負担抑制のためにターゲットとして狙われるのが薬価です。
日本は国民皆保険制度のもとで、医療サービスへの対価が一定の割合で税負担となっています。自己負担の割合は、75歳以上で1割、70歳から74歳までは2割、それ以外の人たちは3割です。税金で負担する割合が大きければ大きいほど、予算に占める医療費の割合は大きくなります。すると政府は、医療費抑制のために様々な手法を用いて薬価を下げようとするので、製薬会社は新しい薬を開発するだけの利益が生まれなくなってしまうのです。これでは悪循環です。
政府の予算に対して、無駄に使っている部分を改めてもらうことと同時に、国民の側ももう少しだけ自己負担を増やしていくことができれば、薬価に対する引き下げ圧力が緩和され、製薬会社が新しい薬を開発しやすい環境に近づきます。薬価の自由度は新薬の開発に直結する問題です。
同時に治験や承認の規制を緩和しつつ、できるだけ海外市場に合わせた形とすることで、効率化する努力も続けていけば、今まで治療薬がなくて困っている人や、もっと早く病気を治したい人たちに、日本国内で薬を提供できるようになることはもちろん、日本で開発された良い医薬品を持って世界の市場に打って出る展望も開けます。そうすれば、日本の製薬産業は良質の医薬品だけではなく、関係企業も含めた多くの人たちの雇用も作っていくことになります。
製薬産業は今でもすでに十分大きな産業ですが、より大きく強くなって、文字通り人を癒し、日本経済を癒すことに貢献できるのです。
日本は医療先進国だと言われます。その一方で、技術は高くても、規制や法律、条例などで様々な制約を課されて企業活動がしづらい、しかもロクに儲けが出ないとなれば、経営上、その技術を国外へ持っていってより良い環境で使おうと判断されてしまいます。
日本の医療は国民が税金で支えている部分が非常に大きいのですが、その括りをひとつ飛び越えてみる発想の転換が、多くの人たちを1気にします。自分たちも医療サービスにもっと身銭を切っていこうと多くの人が考えれば、本当に必要な医療や製薬に企業は投資することができます。たくさんの人たちが助かり、日本企業が成長することで日本経済も上向いていくことになるのです。
渡瀬 裕哉
国際政治アナリスト
早稲田大学招聘研究員