(画像はイメージです/PIXTA)

認知症を患っていた父親の死後、財産管理を引き受けていた兄による5000万円の預貯金の使い込みが判明しました。妹は兄に返還請求できるのでしょうか。また、請求に際して注意すべき点はあるのでしょうか。長年にわたり相続案件を幅広く扱ってきた、高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が実例をもとに解説します。

「不当利得返還請求」と「損害賠償請求」の違い

さて、ここまで、不当利得返還請求と不法行為に基づく損害賠償請求について、わかりやすくするために不当利得返還請求だけ取り上げて説明をしてきました。

 

使い込みにおいて、「不当利得返還請求」と「不法行為に基づく損害賠償請求」はどこが違うのでしょうか。

 

使い込みの場合、証明することは、ほぼ同じです。①無断で、②おろしたことの2点を証明することとなります。

 

大きく異なるのは、消滅時効の点です。

 

不当利得返還請求の時効は、使い込みが2020年3月以前であれば、使い込みから10年となります。使い込みが2020年4月以降だと、使い込みから10年、使い込みを知ってから5年となります。

 

これに対し、不法行為に基づく損害賠償請求の時効は、使い込みから20年で、使い込みを知ったときから3年となっています。

 

どちらが得なのかはケースバイケースとなります。法律上は、得な方で請求してよいこととなっています。

 

2020年3月以前のケースでは、使い込みを知ってから3年経過してしまっていると、不法行為に基づく損害賠償請求は時効消滅していますが、使い込みから10年が経過していなければ不当利得返還請求は時効にかかっていないので、不当利得返還請求で返還を求めることができるということとなります。

 

逆に、2020年3月以前のケースで、使い込みから10年経過していると、不当利得返還請求は時効消滅していますが、20年経過前に発覚した場合、発覚してから3年以内であれば、不法行為に基づく損害賠償請求は時効にかかっていないので不法行為に基づく損害賠償請求はできることとなります。

 

最初にもお話しましたが、相続が発生してから使い込みが発覚する、という事例は少なくありません。使い込みを防ぐには、成年後見制度を利用する方法があります。

 

成年後見人には、将来相続人となる予定の方の同意があれば親族の誰かがなることが可能です。成年後見人は、裁判所に年1回の収支の報告義務があり、通帳のコピーも提出する必要があるので、使い込み防止になります。親族の誰かでは使い込みが心配だという場合には、中立の弁護士や司法書士が成年後見人になります。

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士

 

 

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