患者への情報の提示の仕方で行動が変わる
医療サービスでは、多くの情報を提供する必要があり、患者はその情報をもとに判断している。そのため、医療従事者は、ただやみくもに情報を伝えるのではなく、患者にとり最善の選択ができるように、そして、患者が望む結果を得られるように情報を提供する必要がある。
例えば、Milkman et.al.(2011)は、米国の電力会社3,273 人の従業員に対して、ナッジの実験を行った。無料で受けられるインフルエンザの予防接種の案内を3グループに分けてメールした。すべての案内には、インフルエンザが無料で受けられることが書いてある。
そして、【A】は5パターンの接種可能日と時間が書いてある案内、【B】は5パターンの接種可能日と、自分で参加予定日を記入する欄があり記入を促す案内、【C】は5パターンの接種可能日と、自分で参加予定日と時間を記入する欄があり記入を促す案内、の3種に分けて作成し、差を確認するために各グループに送付した【図】。
その結果、【A】を送られたグループは接種率33.1%、【B】を送られたグループは接種率35.6%、【C】を送られたグループは接種率37.1%と、異なった結果が確認された。情報提示により接種率が変わり、患者の行動変容につながることが明らかになった。これは、実行意図の重要性を示したものである。
この実行意図とは、「状況Xが発生したら、対応Yという行動をとる」という形式により、目標達成のための行動を事前に具体的な行動計画として決定して示し、自己を誘導することであり、望ましい目標を達成できる。この実行意図は、望ましい動作に方向付けるためのナッジであることを示している(Milkman et.al., 2011)。
この調査からも伺えるように、医療従事者は患者が最適な判断を下して実行するために、患者の意思決定の傾向を理解し、効果を考えることが重要である。そのうえでコミュニケーションを駆使して、医療サービスを提供する必要がある。
杉本ゆかり
跡見学園女子大学兼任講師
群馬大学大学院非常勤講師
現代医療問題研究所所長