※画像はイメージです/PIXTA

マンションの一室を「暴力団組事務所」として使用されており、なんとか追い出せないかと考えている管理組合。近年、暴力団排除の気運は高まっており、従前に比べて対応がとりやすくなっているといえます。取りうる手続きについて、香川総合法律事務所・代表弁護士の香川希理氏が解説していきます。 ※本連載は、書籍『マンション管理の法律実務』(学陽書房)より一部を抜粋・再編集したものです。

現実的な危害が発生していないのに請求できるのか?

(1)共同利益背反行為の要件について

 

区分所有法59条に基づく競売請求が認められるためには、「共同利益背反行為による共同生活上の障害が著しいこと」という要件(共同利益背反行為の要件)を満たす必要があります。

 

この点、当該暴力団組事務所に対する襲撃や抗争がすでに発生している場合や、同事務所に出入りする暴力団員が他の区分所有者に迷惑行為を行っている場合には、上記要件を満たすことは間違いありません。

 

では、このケースのように、現実的な危害が発生していない状況で、「暴カ団組事務所として使用していること」だけをもって、上記要件を満たすといえるでしょうか。

 

この点、平成22年頃から全国で暴力団排除条例が施行され、平成28年の標準管理規約改正において暴力団排除条項が導入されるなど、社会において、暴力団排除に対する気運、要求は年々高まっています。

 

このような気運が高まった背景には、まさに暴力団組事務所をめぐる抗争などで付近住民などの一般市民が犠牲になったという過去の痛ましい事件の存在があります。

 

実際に、ひとたび暴力団同士の抗争が生じた際には、真っ先に暴力団組事務所が標的となり、その際は、他の区分所有者の生命、身体には重大な危険が生じます。しかも、その危険は予告なく突然起こるものであり、周辺住民自らが事前に予防することは難しいものです。

 

このような暴力団組事務所が存在すること自体の危険性や上述した現代社会の暴力団排除に対する気運に照らせば、本ケースのように、現実的な危害が発生していない状況であっても、「暴力団組事務所として使用していること」だけをもって「共同利益背反行為による共同生活上の障害が著しいこと」にあたるといえるでしょう。

 

実際に福岡地裁平成24年2月9日判決(判秘)は、「本件マンションの住民らとの間の具体的な紛争や、被告らが関与した、他の暴力団等との抗争事件等が既に発生しているといった事情を認めるに足りる証拠はないことを考慮しても、被告が本件専有部分を暴力団事務所として使用することは、区分所有者の生活上の利益を含む建物の管理・使用全般にわたる共同の利益に反する行為であり、これによる区分所有者の共同生活上の障害が著しい程度に至っているものと認められる。」と判示しています。

次ページ「組事務所として使用していなかった」2つの裁判例
トラブル事例でわかる マンション管理の法律実務

トラブル事例でわかる マンション管理の法律実務

香川 希理

学陽書房

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