しかし…「②の結論には疑問が残る」と言えるワケ
両裁判例は、暴力団組事務所としての「再度の使用可能性」によって、判断が分かれており、一見するとどちらも妥当なものに思えます。
しかしながら、②の裁判例の結論には疑問が残ります。なぜならば、暴力団排除条例が施行されたことなどによって、暴力団組事務所として使用されていた不動産を暴力団と関係のない第三者が購入することは現実的にかなりの困難が伴います。
暴力団と取引をすることによって、利益供与とみなされたり、暴力団関係者とみなされたりするおそれもあります。
同事案のような取引の場合には厳密にはそれらにあたらないとしても、暴力団とは関係のない第三者が、そのようなおそれのある取引をすること自体がリスクを伴います。したがって、仮に第三者が当該不動産を実際に購入することがあるとしても、その新しい第三者も暴力団関係者であるという危険性があるのです。
また、現在の区分所有者である暴力団関係者としても、前述のとおり、暴力団排除条例などによって、新たな暴力団組事務所を購入・賃借することはかなり難しくなっています。したがって、買付証明書の発行を受けたとしても、実際にすでに所有している貴重な不動産を手放すとは限りません。
特に②の裁判例のように、買付証明書の発行を受ければ区分所有法59条競売請求を免れることができるとすれば、今後は形式的な発行を受ける者も出てきてしまうでしょう。
したがって、②の裁判例の結論には疑問が残ります。管理組合側としては、以上のような危険性を詳細に主張・立証することによって、口頭弁論終結時において暴力団組事務所として使用されていなくとも、「再度の使用可能性が高い」旨反論することも考えられます。
香川 希理
香川総合法律事務所 代表弁護士