「組事務所として使用していなかった」2つの裁判例
(2)補充性の要件について
区分所有法59条に基づく競売請求が認められるためには、「『他の方法』に基づく請求によってはその障害の除去、区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であること」という要件(補充性の要件)も満たす必要があります。
この点、暴力団組事務所の場合には、専有部分内部が暴力団の事務所として使用されているか否かを外部から把握することは困難です。したがって、区分所有法57条に基づく共同の利益に反する行為(暴力団組事務所としての使用)の停止等の請求をしたとしても、実際に暴力団組事務所としての使用を停止したか否か判断できず、効果がありません。
また、区分所有者が暴力団関係者である以上、仮に区分所有法58条に基づく使用禁止請求が認められたとしても、使用禁止期間経過後には再度暴力団組事務所として使用される可能性が高いといえます。
とりわけ、近時、暴力団排除条例などによって、新たな暴力団組事務所を購入・賃借することはかなり難しくなっているため、再度の暴力団組事務所使用の可能性は高いといえます。
さらにいえば、暴力団組事務所(または暴力団関係者が所有する部屋)がマンション内に存在するという事実だけでも、近時の社会情勢に照らせば、他の部屋の財産的価値を損ねるおそれがあります。実際に、暴力団組事務所が近隣に存在することが「瑕庇」にあたると判断した裁判例も存在します【東京地判平成7・8・29判時1560・107】。
したがって、区分所有法57条や同法58条に基づく請求では抜本的解決にならず、競売請求以外の方法によっては、区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとして、補充性の要件を満たすことが可能です。
(3)口頭弁論終結時の使用状況について
共同利益背反行為の要件および補充性の要件は、口頭弁論終結時まで存在することが必要であり、訴え提起時に要件が存在していても、口頭弁論終結時に消滅していたときは、訴えは棄却されることになります(法務省民事局参事官室編「新しいマンション法――一問一答による改正区分所有法の解説」商事法務研究会、1983、310頁)。
この点について、口頭弁論終結時において暴力団組事務所として使用していなかった裁判例が2つあり、両裁判例は判断が分かれています。
まず、①前掲・福岡地裁平成24年2月9日判決は、口頭弁論終結時において暴力団組事務所として使用していないとしても、専有部分に未だ各種備品が置かれている状況や暴力団関係者以外の第三者へ譲渡するための具体的な行動を裏付ける根拠がないことを理由として、請求を認容しています。
一方、②東京地裁平成25年1月23日判決(判タ1408号375頁)は、口頭弁論終結時において暴力団組事務所として使用していないことに加え、専有部分が空室となっていることや買付証明書の発行を受けるなどの売却のための具体的な行動がとられていることを理由に、請求を棄却しています。