しかし「人生とは本当に、何が起こるか分からない」
しかし、今となっては、精神科医として当事者に寄り添ううえでは大きな糧となっています。有効ではない対人援助を受けているときの感覚が分かるからです。
目の前に医師がいても暗く、もやがかかったように遠くに感じられた、あの小椋少年の感覚です。そして今、初診で患者さんにお会いするとき、この方もきっと、そのもやの中にいるのだろうと想像できるのです。人生とは本当に、何が起こるか分からないものです。
私は、偶然にも訪れた書店で自らの生きづらさを解決するヒントに出会えたわけですが、PSMの人たちでこうした幸運に恵まれる人は多くはないでしょう。日本の精神医療には、助けを求めて精神科の門を叩く一人でも多くの人たちに、必要な援助を届けられる仕組みが必要です。
私はそのために、当院で実践している診療モデルをデジタル化していくためのアプリ開発と、対人援助スキルの体系化に挑んでいます。非常に困難なチャレンジではありますが、PSMの人たちの生きづらさを軽減し、少数派か多数派かを問わず、すべての人が輝き活躍できる社会を実現するため、粘り強く取り組んでいくつもりでいます。
小椋 哲
医療法人瑞枝会クリニック 院長