一時115円目前まで迫った「米ドル/円」…11月の展開は「米2年債利回り」次第か

11/2~11/8の「FX投資戦略ポイント」

一時115円目前まで迫った「米ドル/円」…11月の展開は「米2年債利回り」次第か
(※画像はイメージです/PIXTA)

先週の米ドル/円は一時114円後半まで上昇するも、週末にかけて113円台半ばへ反落となりました。反落するきっかけがあったようには見えませんでしたが、一体なぜこのような値動きとなったのでしょうか。本記事では、FX開始直後から第一線で活動している、マネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏が、先週の米ドル/円上昇一服の理由と、今後の展開について考察していきます。

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「11/2~11/8のFX投資戦略」のポイント

[ポイント]​

・米金融緩和の政策転換を織り込む形で、米2年債利回りが急騰、これに連れる形で米ドル/円も10月に一気に115円に迫るまでの一段高となった。
・米ドル/円一段高の道先案内役となった米2年債利回り急騰だったが、短期的には異常なほどの「上がり過ぎ」が懸念されてきた。過去の似たケースを参考にすると、米2年債利回りは一時的に比較的大きく低下する可能性もある。それが米ドル/円にどう影響するかが、10月相場の注目点だ。

112円割れへ反落、それとも米ドル高値更新続くのか

10月の米ドル/円は一段高となり、一時115円に迫る場面もありました。ところでこの動きは、それまで高い相関関係が続いてきた日米10年債利回り差からはかい離が目立っています(図表1参照)。

 

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表1]米ドル/円と日米金利差その1 (2021年6月~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

115円に迫るまでの米ドル/円一段高をうまく説明できそうなのは、同じ日米金利差でも、2年債利回り差です(図表2参照)。金融政策を反映する2年債利回りは、9月FOMC(米連邦公開市場委員会)の後から、11月FOMCでのテーパリング開始決定により、米国の超金融緩和政策が転換に動き出すことを織り込む形で、急騰となりました(図表3参照)。

 

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表2]米ドル/円と日米金利差その2 (2021年6月~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表3]米2年債利回りと90日MA (2021年1月~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

米2年債利回りは、9月FOMC前は0.2%程度で推移していましたが、その後は一気に0.5%程度まで大幅な上昇となりました。これを受けた、日米2年債利回り差米ドル優位急拡大に連れた結果が、10月の米ドル/円急騰です。

 

金融緩和政策の転換においては、短中期の金利は、政策金利の上昇を先取りする形で上昇し、一方で、先行きの景気減速を織り込む形で、長期金利は逆に低下することがあります。今回の場合も、米2年債利回りがほぼ一本調子で上昇に向かうなかで、米10年債利回りが上げ渋るところとなったことも理解できるでしょう。そして米ドル/円は、日米2年債利回り米ドル優位拡大に連れる結果となりました。

 

115円に迫るまでの一段高となった米ドル/円でしたが、その割に90日MA(移動平均線)からのかい離率などを見ても、まだ短期的な「上がり過ぎ」懸念が強いというほどではなさそうです(図表4参照)。

 

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表4]米ドル/円の90日MAからのかい離率 (2000年~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

CFTC統計の投機筋の円ポジションは売り越しが急拡大

次に円のポジションについて見てみましょう。ヘッジファンドなどの取引を反映しているとされるCFTC統計の投機筋の円ポジションは、売り越しが急拡大し、10月末には10万枚程度まで拡大しました(図表5参照)。

 

徐々に円の「売られ過ぎ」も懸念される状況にはなってきたものの、過去には売り越しが10万枚を大きく上回ったこともあったので、まだ極端に「売られ過ぎ」が懸念されるほどではなさそうです。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表5]CFTC統計の投機筋の円ポジション (2015年~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

以上のように見ると、米ドル/円自体は、上昇が継続し115円を超える動きになってもおかしくない「余力」があるように見えます。ただ、米ドル/円急騰の「道先案内役」を果たしていた米2年債利回りは、90日MAからのかい離率などを見ると、異常といえるほどの短期的な「上がり過ぎ」懸念が強くなっているようです。

 

米2年債利回りの90日MAからのかい離率は、これまではプラス60%以上になると拡大一巡となってきました。ところが、最近にかけて同かい離率は一時90%程度まで拡大しています(図表6参照)。経験的には、短期的な「上がり過ぎ」の限界に達している可能性かありそうです。

 

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表6]米2年債利回りの90日MAからのかい離率 (2010年~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

FOMC、雇用統計発表予定…今週の米ドル/円の展開は

ところで、このような米金利の行き過ぎた動きは、経験的にはFOMCや雇用統計発表など、米金利に影響力の大きいイベントを前後し一巡するパターンが基本でした。FOMC、雇用統計発表どちらも予定されている今週は、米2年債利回り上昇の転換点になるタイミングとしても注目されます。

 

ちなみに、米2年債利回りの90日MAからのかい離率は、今年6月のFOMCの後にもプラス60%以上に拡大しましたが、拡大が一巡すると90日MA前後まで低下に向かいました。これは、「上がり過ぎ」修正の典型パターンといえそうなので、それを参考にすると、米2年債利回りは上昇が一巡した後は0.3%前後まで低下する可能性があるという見通しになります。

 

そんなふうに米2年債利回りの上昇が止まり、低下に向かうなら、米ドル/円はどう反応するのでしょうか。これまでと同様に米2年債利回りの影響を受ける状況が続く場合、これまでの米ドル/円と日米2年債利回り差の関係を前提に考えると、米2年債利回りが0.3%前後まで低下に向かうなら、米ドル/円は112円割れまで下落する見通しになります(図表7参照)。

 

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表7]米ドル/円と日米金利差 (2021年1月~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

米2年債利回りの「上がり過ぎ」懸念は、あくまで短期的なものであり、米金融政策を反映する米2年債利回りは、米国の超金融緩和政策が転換に向かうなかで基本的には上昇傾向が続き、米ドル/円の上昇を裏付ける要因となりそうです。

 

ただ短期的には異常なほどの米2年債利回りの「上がり過ぎ」が懸念点となるでしょう。上がり過ぎ修正に伴い米2年債利回り低下に転じたとき、米ドル/円にどう影響するかが、11月の行方を考える上での、ひとつのカギとなりそうです。

 

米ドル/円の10月の値幅は4円近くまで拡大、このような活発な値動きは続く傾向があることから、11月も値幅が3円以上に拡大する可能性が考えられます。その意味では、115円を超えられないようなら、計算上は112円割れのリスクも警戒する必要があるでしょうし、逆に113円を割れなければ、この間の米ドル高値を更新し115円を大きく上回る可能性があるといえるでしょう。
 

 

 

吉田恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティFX学長

 

 

※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

 

 

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