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定期配送や自動補充の商品販売のメリット
■ゼロクリックエコノミー
人はそれぞれにこだわりがあり、ショッピングの対象も人それぞれだ。衣料品やジュエリー、エレクトロニクスに目がない人もいるし、家具やアート、自動車に情熱を傾ける人もいる。
一方、このような喜びや興味の対象ではなくても、買わねばならない必需品も存在する。統計的には、私たちが購入している食品や家庭用品の50%程度は、思い入れがあって買っているものではなく、単に使い切ったら補充するだけの商品である。近所のスーパーでおむつや食卓塩、ゴミ袋を買うのに、どれにしようかと延々と悩むようなことはしない。
よくあるのは、前回買ったものを再購入することだろう。多くの場合、毎週あるいは毎月、同じタイミングで買っている。もちろん、スーパーで自分好みの商品を品定めする楽しみはあるのだが、いくらなんでも10キロ入りドッグフードでそんな気にはならない。毎日暮らしていれば、この手の面倒な買い物が数千とは言わないまでも何百点かはある。
こうした決まりきった日常の消費のうちの半分を獲得しようと狙っているのが、アマゾンなど食物連鎖の頂点に立つ巨大小売業者だ。どうやって実現するのか。実はすでに手段は整いつつある。
小売業界がようやくオムニチャネルを理解しはじめたころ、アマゾンは消費者の生活のなかで「オムニプレゼンス」(空気のようにどこにでもあること)を確立することに注力している。同社のアレクサという音声認識技術を利用したスマートスピーカー(音声アシスタント)「アマゾン・エコー」の累計販売台数がすでに1億台を突破している。
ニュースサイト『ザ・ヴァージ』によれば、「150以上の製品にアレクサが搭載され、アレクサと連携して動作するスマート家電は4500社を超えるメーカーから2万8000点以上が発売されていて、アレクサの『スキル』(アレクサで実行できる機能、一種のアプリに相当)は7万種以上」というプラットフォームになっている。
消費者にこうした習慣が広がっているため、2014年にアマゾンが出願した特許の後押しにもなりそうだ。それが「予測出荷」なる物流システムである。将来のどこかの時点で顧客が注文するであろう商品を、注文が発生する前の時点で出荷を開始してしまうというのが、アマゾンの説明だった。どのくらい前倒しで発送するかというと、客がその商品を必要と意識さえしないうちに発送するというのだ。
この特許によれば、高度なデータ分析プラットフォームを駆使して、習慣的な購買行動を予測し、受注確率の高い商品を、その顧客宅に近い地点まで輸送しておくもので、前出の京東商城が実施している需要予測と似ている。このようなシステムがあれば、アマゾンは、商品や配送先にもよるが、所要時間を数日単位から数時間単位にまで劇的に短縮できる。
これに、アマゾンの「定期おトク便」(頻繁に使用する商品を割引価格で自動的に定期配送する仕組み)と組み合わせればどうだろう。消費者が普段から検討などせずに買っている生活必需品の半分を囲い込もうとしていることは明らかだ。
かたやウォルマートは、顧客の暮らしや住居にもっと深く入り込む計画を練っているようだ。同社は2017年に完全自動化店舗の設計に関する特許を出願した。自動化もさることながら、この出願が特に目を引いたのは、自動化店舗の設置先だ。なんと、顧客の自宅に直接設置するというのだ。
出願内容を見ると、この店舗は、ウォークインクローゼットくらいのスペースの食品貯蔵庫風の構造で、客が好きなものを取り出すと、アカウントに請求があり、商品はウォルマートの配送チームが定期的に在庫を補充するという。しかも、システムには人工知能が搭載され、顧客の好みに合わせて商品を推奨する機能もある。
小売業界のトップ企業にとっては、定期配送や自動補充で商品が購入されるたびに、重要なメリットが2つ発生する。まず物流・配送コストの削減。もう1つが顧客の囲い込みである。
ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント