なぜ「クリティカル・シンキング」を磨くか
■「ひとり弁護士」訓練で創造性がアップ
思考の方法として意識的に身につけてほしいのは、「クリティカル・シンキング(批判的思考)」です。
私は、「見識」とは「どれだけたくさんの人の立場に立って考えられるか」ということだと考えています。
つまり、ひとつの意見を鵜呑みにせず、さまざまな方向、さまざまな人の立場から考えられるようになること。これこそが「見識を蓄える」ということに他ならないのです。
クリティカル・シンキングは、こうした思考の柔軟性を培うのにぴったりです。
具体的には、人の意見に触れたとき、「それは本当に正しいのかな?」「反対意見はできないかな?」と、「反論」をあえて試みるように心がけてみる。
私はこれを「ひとり弁護士訓練」と呼んでいます。
弁護士は、依頼人の話を聞いても、それをそっくりそのまま鵜呑みにしたりはしません。必ず裏付けをとって、客観的な証拠を得てから信じます。争いの調停をするにしても、双方の意見をよく聞いて判断します。
私たちも、「この意見は本当にそうかな? 別の視点で見ると違う意見にはならないだろうか」と、弁護士になったつもりで考えてみる。例えば、マスコミの袋叩きにあっている人を、弁護士になったつもりで、「いい点」を見つけてかばってみるのです。
これは、テレビで聞いた意見、雑誌で読んだ意見、友達の意見、ご近所さんから聞いた意見などなど、人の意見に接したときにはどんなときでも実践可能です。
その意見が腑に落ちようと腑に落ちまいと、なるべくさまざまな視点から、自分なりに考え直すように意識してみてください。
本に書いてあることも、鵜呑みにするより、別の立場ならどう考えるか、
あるいは反論するなら何かできないかを考えてみるのです。
こうした訓練を重ねていくことで、人真似や「他人本位」ではない、自分なりの考え方、「自分本位」の思考ができるようになるのです。
「自分本位」の思考は、「みんなと同じ」で得た壊れやすい安心ではなく、本物の自信と安心をもたらしてくれます。
体のなかにひとつ芯がとおったような安心感が得られます。
ちなみに、こうした「反論」の訓練は、意欲や創造性を司る脳の前頭葉を刺激して、その若々しさを保つことにも役立ちます。
前頭葉が若々しいというのは、若々しい考え方ができるということです。ひらめきを得たり、面白いアイデアを思いついたり、意表をついた考え方をするためには、前頭葉を鍛えるのが一番ですから、そのためにも「反論」の訓練はよい「脳トレ」になりますよ。
和田 秀樹
和田秀樹こころと体のクリニック 院長