「生産性=就労者1人あたりが生む付加価値額」と定義
日本生産性本部は「生産性」を8つに分類しています。本稿では特に断りのない限り、一人あたりの労働生産性─―就業者が一人で1年間に生みだす付加価値額を生産性と呼ぶことにします。つまり、会社が1年間に生みだした付加価値額を就業者数で割ったものが、本稿でいう生産性です。
一般的に「生産性」というと、1時間あたりにどれだけの成果物が生みだせるかをイメージする方が多いと思います。例えば「Aさんは1日で3ページのドキュメントを作成でき、Bさんが2ページ作成できるとしたら、AさんはBさんの1.5倍の生産性がある」というような使い方です。これは「1時間あたりの物的生産性」に該当し、一般的にいわれる「生産効率」と同様の意味になります。本稿でいう生産性はこれとは異なります。
本稿でいう生産性(一人あたりの労働生産性)は、就労者1人あたりが生みだす付加価値額になるので、生産効率が悪くても時間をかければ達成できます。AさんとBさんの例でいえば(ドキュメント1ページあたりの付加価値は同じとして)、Aさんが残業なしで月に480ページのドキュメントを作成したとして、Bさんが80時間残業して同じく480ページのドキュメントを作成しても、同じ生産性ということになります。一般的な生産性とは少し違うかもしれませんが、これは本稿を読み進めていくうえでの大前提になります。
生産性を「能力」「時間」「パフォーマンス」から検討
本稿でいう生産性は、月や年といった一定の期間でどれだけの付加価値を生むかということであり、残業時間などは考慮しません。効率的な人であれば残業なしで生みだせる付加価値を、効率があまり良くない人だと何十時間も残業しないと生みだせないということもあります。
「一人ひとりが生みだす付加価値を増やそう」と言っても、それは単なるスローガンにしかなりません。掛け声だけでは生産性は向上しないのです。生産性が低い状況であれば、原因を把握して、その原因に対して対策を打つことが大切です。そして原因を把握するためには、生産性をいくつかの要素に分解して、それぞれがどうなっているか一つずつ調べるという方法が有効です。
生産性の要素は次の計算式から導きます。
【生産性=能力×時間×パフォーマンス】
能力とは、業務を遂行するための基礎的なビジネススキルやリテラシーを指します。計算力や言語能力、コミュニケーション力、文書作成能力、企画力、ITリテラシーなど、教えることが可能で、訓練によって身につくことです。あるいは経験によって身についたノウハウや知恵なども能力に含みます。人は能力に応じて、できる仕事の内容やレベルが変わってきます。
時間は就労時間のことで、仕事にかかった時間になります(残業時間も含みます)。
パフォーマンスは、広い意味をもつ言葉です。主な日本語訳としては、演奏・演技・出来映え・成績・性能などがありますが、ここでは「業務遂行能力」という言葉を充てたいと思います。これは、業務をやり切る力のことです。
これら3つの要素について、例えば能力の高いAさんと、Aさんより能力の低いBさんがいたとします。能力に差があるので、同じ仕事に取り組む場合、AさんはBさんより早く仕事を終えることができます。その場合、Bさんはより長く働くことで、Aさんと同等の生産性となり得ます。
しかし、能力と時間だけでは説明できないこともあります。例えばAさんとBさんでは能力はAさんのほうが高いのに、困難なプロジェクトを任せるとAさんは途中で挫折することがあります。しかしBさんはいつもなんとかしてやり遂げるといったケースです。付加価値を生むということにおいては、能力や時間だけでない第3の要素が必要であり、それがパフォーマンス(業務遂行能力)です。
この3つは掛け算ですので、どれか1つがゼロならば何も付加価値を生みだしません。
まったく能力が及ばない仕事を無理に任せても何も生まれません。時間がゼロならいうまでもないでしょう。そしてパフォーマンスがゼロでも何も生まれません。
また、パフォーマンスはメンタルに大きく左右されることが分かっています。わが子がなんらかの災難に巻き込まれて安否が分からなくなったら、普通の人は仕事どころではなくなります。何件も連続して失注し、自信を失っているセールスパーソンに難しい案件の受注は期待できません。残業続きでうつ病の一歩手前になっている人は、そのままではほとんど戦力にならないので、すぐに休ませて、治療に専念させるべきです。このようにストレス等が原因でパフォーマンスが落ちている人は、生産性も極端に落ちることになります。