(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍はアメリカのデジタルフロンティアに新たなスタートアップ企業が続々誕生している。その市場をアマゾン、ウォールマートの巨象が虎視眈々と狙っているという。アメリカ市場に何が起こっているのか。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

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    アマゾンの次なる動き、ウォールマートは

    特に興味深いのは、オブセスに出資しているベンチャーキャピタル一覧にビレッジグローバルの名前がある点だ。実はこのベンチャーキャピタルにはビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグ、そしてお察しのとおり、ジェフ・ベゾスも出資しているのだ。

     

    ジェフ・ベゾスについて言えば、世界の小売業界全体がアマゾンに追いつくのを座して見守っているだけと考えるのは、あまりにおめでたい。そんなに甘くない。25年前、アマゾンが世界的にオンラインショッピングの標準形となったように、ベゾスらは再びそのレベルを上げようと虎視眈々とタイミングを見計らっているはずだ。

     

    ■ショッピングできるメディア

     

    頂点を極めた巨大小売業者が成長や拡大を続けるうえで、コマーシャルなどの広告収入も重要だが、映像や音楽のプラットフォームにも大きなチャンスが潜んでいる。こうした映像・音楽メディアは、アリババもアマゾンも揃って開拓に成功した分野である。2019年、アリババは映画23作品の製作に出資しており、同年の中国国内の総興行収入のうち、同社出資作品が20%を占めている。

     

    だが、アリババのメディア部門の真価は、メディアとショッピングを巧みに融合する力にある。2017年、中国の「独身の日」(11月11日)セールに向けた下準備として、同社は、「即看即買」(「気になる商品があればその場で買う」)を謳うファッションショーをライブで開催し、セレブ・有名人や多彩な人気ブランドの商品が登場した。テクノロジーと情熱で新たな体験を生み出す機敏さがあるからこそ、世界のブランドにとってアリババは魅力的に映るのだ。

     

    一方、アマゾンは、2018年に定額制動画配信サービス「アマゾン・プライム・ビデオ」で17億ドルを売り上げた。前年は7億ドルだったから驚異的な伸び率だ。パンデミック前の予測では、プライム・ビデオの売り上げは2020年に36億ドルに拡大すると見られていた。世界各地でロックダウンが実施されたことから、この数字が跳ね上がり、第2四半期の視聴が前年同期比で倍増した。

     

    アマゾンは、エンターテインメントとの出合い方を変えようとしているだけでなく、楽しみ方までも変えようとしている。2020年第2四半期にアマゾンは、仲間と一緒に映画・テレビ番組を視聴できる機能「ウォッチパーティ」を発表した。アマゾンのプライム会員を対象とした機能で、映画やテレビ番組を同時視聴する仲間とチャットを通して一緒に盛り上がることができる。

     

    また、ネットフリックスではお馴染みだった複数プロフィールの設定機能が、プライム・ビデオにも導入された。1つのアカウントにつき最大6つの視聴者プロフィール(家族など)を設定できるため、アマゾンからのおすすめなども、(父親向け、子供向けのように)各視聴者のプロフィールごとに違った内容となる。

     

    そしてアマゾンも、メディアとショッピングの融合に乗り出した。その例が、2020年に配信を開始したファッションリアリティ番組『メイキング・ザ・カット』である。司会はモデルでタレントのハイジ・クラムとファッションコンサルタントのティム・ガンだ。毎週更新の同番組は、12人のファッションデザイナーが腕を競い合い、優勝者はグローバルなアパレルブランドを立ち上げ、賞金100万ドルを獲得できる内容だ。1話放映された直後に、その回に登場したデザインの商品がアマゾンで購入可能になっている。

     

    このメディア戦争から取り残されまいと、2020年8月にはウォルマートも、中国のアプリ開発会社バイトダンス(字節跳動)が開発したショートムービー投稿アプリ「ティックトック」の米事業買収に名乗りを上げた。月間アクティブユーザー数が8億人以上というティックトックは、ユーザー制作のコンテンツが続々と投稿されて、いかに病みつきになるかがわかる。それだけに、ショッピングとの親和性も高い。

     

    さらにティックトックの利用者属性の内訳では、34歳未満の若い世代が約90%を占める。マーケティング的には宝の山なのだ。

     

    さて、買収が仮に承認されれば、ウォルマートはティックトック・グローバルの株式7.5%を獲得するだけでなく、オンライン販売、受注管理・配送、決済、その他オムニチャネルサービスを、新規に設立するティックトック・グローバル(同社海外サービス会社)に提供する商業契約を結ぶことになる。

     

    ティックトックがウォルマートの計算どおりの利益をもたらしてくれるかどうかは、事態の推移を見守るしかない。ソーシャルメディアは、一時の流行で終わる可能性もあるからだ。だが、この場合、行間を読まねばならない。頂点を極めた勝ち組と手を組むなら、エンターテインメントやメディアのチャネルが不可欠であることは、ウォルマートも十分承知しているということだ。

     

    ダグ・スティーブンス
    小売コンサルタント

     

     

    小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」

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    ダグ・スティーブンス

    プレジデント社

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