(※写真はイメージです/PIXTA)

コロナ禍は巨大化するアマゾンの弱点をあぶり出しました。巨大企業は尋常ではない規模とペースで拡大を続けていかねばなりません。その妨げとなるのが、人間の脆さや弱さだといいます。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

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巨大化するアマゾンにも弱点があった

進化は諸刃の剣だ。食物連鎖の頂点からの眺めの良さを考えれば、そこをめざす価値はあるが、頂点捕食者の地位を維持するためには、絶えず栄養価の高い新たな餌を探し続けなければならない。

 

かたや利益の源泉を止めさせまいと迫ってくる投資家、かたや急速に力を伸ばしている競合他社。小売業界の頂点に立つ巨大な怪物たちは、両方のプレッシャーの板挟みになりながらも、業界での支配体制を維持しつつ、投資家が求める利益も上げていく新たな手段が必要になる。

 

各社とも既存のビジネスモデルの範囲内で、新たなプラットフォームやプログラム、市場参入を通じて成長する余地があるものの、怪物がさらなる成長に必要な栄養源を確保するには、既存のビジネスモデルでは間に合わない。

 

こうした食物連鎖の頂点に立つ怪物ブランドにも、やがてはそのイノベーションや成長がかすんでしまうような強敵が現れる。

 

■使い捨て労働力からロボティクスへのシフトが始まった

 

2020年5月、アマゾン創業者のジェフ・ベゾスの発表に、人々は度肝を抜かれた。パンデミック中に、同社サプライチェーンの安全確保に約40億ドル相当を振り向けると発表したのである。ベゾスは、赤外線カメラによる従業員の発熱チェック、マスクなどの個人用安全装備、幅広い関係者を対象とした検査まで含めた感染対策構想を打ち出したのだ。先見性があり、大きく踏み込んだ画期的な計画だと賞賛する声も一部から上がった。

 

ただ、何でもそうだが、物事は見た目ほど単純なわけではなく、この話こそ、まさしくそういうケースではないかと私は考えている。

 

わずか1カ月前まで、アマゾンはクリスチャン・スモールズという人物との間でゴタゴタを抱えていたからだ。スモールズは、ニューヨークのスタテン島にあるアマゾンの物流倉庫で働いていた。物流倉庫で重大な健康リスクや安全上の問題に不安を抱いたスモールズは、会社に抗議し、安全対策の強化を求めて職場でボイコットを呼びかけた。それが原因でスモールズは解雇されてしまったのである。

 

同社の顧問弁護士やベゾス自身を含む経営幹部が、スモールズの知性や話し方に難癖をつけ、信用できない人物として片付けようと画策していたことが明らかになるや、他の物流倉庫や本社スタッフも懸念を表明し始めた。この結果、さらに物流倉庫の従業員1人と本社スタッフ2人の計3人が解雇される事態に発展した。

 

私はすぐにこの件について書面で問い合わせた。すると、アマゾンの担当者から回答があり、スモールズが解雇されたのは、「ソーシャルディスタンスの指針に違反して、他の従業員を危険にさらしたため」だという。

 

スモールズ解雇に正当性があるのかどうかは読者の判断を仰ぎたい。

 

だが、知ってのとおり、アマゾンの物流倉庫の労働環境に疑問を投げかけたのは、クリスチャン・スモールズが初めてではない。実際、同社の過酷な労働環境という悪評はすっかり定着している。たとえば、2019年には、毎年恒例のセールイベント「プライムデー」の期間中に、ミネソタ州ミネアポリスの物流倉庫従業員が過酷な労働条件に抗議してストを決行している。一方、アマゾンは長年にわたって、同社事業拠点での組合活動を徹底的に阻止してきた。

 

このため、ジェフ・ベゾスが「サプライチェーンの安全確保」などと語っているのを見ると、真意はどこにあるのか勘繰ってしまう。つまり、安全装備の支給や赤外線カメラによる体温チェックが目的ではなく、サプライチェーンを揺るがして効率低下や操業停止を招きかねない最大の原因を排除しようとしているのではないか。

 

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