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実は飯田屋には優秀な人材がたくさんいた
■優秀とは「優しさに秀でている」と書く
「優秀」とは何を意味するのでしょうか。
誰よりも売上成績がよい「販売技術」でしょうか。仕事のミスをしない「丁寧さ」でしょうか。新しいアイデアを生み出す「発想力」でしょうか。
それらは、すべて素晴らしい能力です。
しかし、それだけで本当に優秀と言えるのでしょうか。
優秀という単語を分解すると、「優しさに秀でている」となります。真に優秀な人とは、優しさに秀でた人。これも、大久保さんに教わった大切な考え方です。
誰よりも売上をつくり、誰よりも道具に詳しく、誰よりも在庫管理に秀でる僕は、自分を従業員の誰よりも優秀だと信じていました。
しかし、それは違いました。僕には優しさがひとかけらもありませんでした。
見方を変えると、優秀な人材が飯田屋にはたくさんいることに驚きました。多くの従業員が辞めていく中、飯田屋を支えてくれていたのは優しさに秀でた心を持った者たちでした。彼らの優秀さに、飯田屋は支えられていたのです。
飯田屋でもっとも優秀でないのは、ほかならぬ僕でした。自分がもっとも優秀と思っていましたが、実は僕がもっとも優秀ではなかったのです。
飯田屋でも飛び切り優秀な従業員、藪本達也の話をしましょう。
彼の持ち味は、お客様の気持ちに寄り添った心の通う接客にあります。人と会話をするときには体の向きを正し、真っ正面から心の声に耳を傾けます。ゆっくりと考えて誠意を込めて話すので、テンポは少しゆっくりとしています。
お客様からのどんな問い合わせにも、嫌な顔をせず快く対応をしてくれます。カタログを片手に、一人のお客様に何時間でも、ご納得いただけるまでとことん付き合います。
仕事の効率ばかりを重視していた僕は、「なぜ、もっと効率的にできないのか?」と不満でした。しかし、それは間違いでした。藪本はとても優しさに秀でていたのです。
あるとき、お気に入りの急須の茶こしを新調したいと、ご婦人が来店されました。
しかし、茶こしの種類は膨大です。その上、茶こしは内径と深さが㎜単位で設計されており、急須にぴったりのサイズを探すのは容易ではありません。
やっとのことで見つけ出したとしても、単価はたったの数百円。割に合わない商売になるため、新しい急須をおすすめしたくなります。
現に、どこの店でも「うちには置いてない」と、たらい回しにあっていたようでした。