優しさは次の新たな優しさを育んでいた
そんな姿を見兼ねた藪本は「もし、ここで断ってしまったら、どこへ行っても茶こしを手に入れられないだろう……。ご婦人の希望を叶えてあげられるのは、きっと僕しかいない」と、分厚いカタログを片っ端から開き、メーカーに問い合わせ続けました。
2時間ほどかけてようやく見つけ出すと、ご婦人はにっこりと喜んで帰られました。
「たった一人のために、たった数百円のために、なんて非効率なんだ!」と思うかもしれません。正直なところ、僕自身がずっとそう考えていました。
しかし、たった一人のために、たった数百円のために、これほどまで親身になれるのは誇るべきことだったのです。非効率なほどに親身にしてもらった経験は、お客様にある種の感動を与えているに違いありません。
藪本が不在時、僕が代わって要件をうかがおうとしたら、「藪本さんがいらっしゃる日に、あらためてうかがいます」と、お断りされたことが何度もあります。個人的には寂しいものの、お客様との間にある信頼関係を誇りに思い、嬉しさが込み上げてくるのです。
また、藪本は一緒に働く仲間たちに向けても優秀さを発揮していました。
誰かが重たい荷物を運んでいれば、頼まれなくても手伝います。汚れている場所は率先して掃除をします。困った人がいたら、自然に声をかけて助けます。
そんな藪本の姿を見て、ほかの従業員たちも優しさを発揮してくれます。優しさは次の新たな優しさを育んでいたのです。
「仏の藪本」という愛称で呼ばれる彼は、今では飯田屋の名物店員として知られ、世界中からお客様がひっきりなしに彼を訪ねてきます。「藪本さんからじゃないと買いたくない」と、おっしゃるファンが何人もいらっしゃいます。
彼は、人を大切にできる優しさに秀でた、とても優秀な「人財」だったのです。
■大切なことを大切にする
大久保さんの勉強会では、さまざまな講師がお話しくださいました。その中でも特に印象に残っているのが、株式会社はちどりの代表、石原慧子さんの「大切な人が大切にしていることを大切にする」というお考えです。
その話を聞いたとき、雷に打たれたような強い衝撃を受けたことをおぼえています。