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「現金以外の資産」は資金繰り悪化の原因
よくある「負債や借金はないほうがいい」や「無借金経営が安全」といった誤解ととても似ているのが「資産はあったほうがいい」という考え方。これも誤解。
貸借対照表を見ると、右側は負債と純資産【図表】。調達したお金を、どうやって運用しているかを示しているのが左側の資産の部。「資産はあったほうがいい」という考えは、この資産の部を充実させようという話。
資産の部には、現金、売掛金、棚卸資産などの流動資産と、建物、土地、ソフトウェアなど有形無形の固定資産などが並ぶ。
結論からいうと、資金繰りの視点から見て、これらのなかで重要なのは現金だけ。
現金以外はいらない。持たなくていい。つまり、「資産はあったほうがいい」の資産が現金以外の資産(土地とか売掛金とか棚卸資産とか)を指しているのであれば、その考え方は大間違いということ。
なぜ持たなくていいのか。現金以外の資産を持つことにより、現金が減るから。
例えば、建物が1億円だとしたら、その建物がなければ1億円の現金があったはず。現状として手持ちの現金が少ないのは、本来であれば手元にあったはずの1億円を建物という資産にしたから。
受取手形や売掛金を早期に回収できていれば、現金はもっと多かったはず。棚卸資産という在庫がなければ、手元の現金はさらに多かったはず。
つまり、資産は現金が形を変えて存在しているもので、現金を減らしている。
資産を持つほど現金が減る。だから、「資産はあったほうがいい」は資金繰りを悪化させる考え方で、資産(現金以外)は持たないほうがいい。
ではなぜ資産ではなく負債を持ったほうがいいのか?
負債は現金を増やす項目だから。負債はどこからかの借入だが、借入というのは現金を増やす手段。負債が多ければ多いほど現金は増えるのであって、負債を減らそうと思えば現金は減るのである。
つまり、資金繰りという観点からは、資産を減らし、負債を増やしたほうが現金は増えるのである。
現金が必要になってから「借りよう」では遅い
負債を増やしたり資産(現金以外)を減らしたりして手持ちの現金を増やすことは、会社を守ることだけでなく、成長することにもつながる。
例えば、こんなケースを考えてみよう。ライバル関係のA社とB社がある。A社は負債がなく、手持ちの現金は5000万円。B社は負債1億円、手持ちの現金は1億円だとする。
さて、両社にM&Aの話が舞い込んできた。その会社を買えば業績アップにつながる。事業拡大のチャンスになる優良案件で、買収価格は8000万円。早い者勝ち。もちろん両社とも動く。
ただ、A社は手持ちの現金が足りない。さっそく銀行に相談するが、過去に融資実績がないため審査に時間がかかる。
そうこうしているうちにB社が手持ちの現金を用意し、名乗りを上げる。この時点で勝負あり。B社は買収によって事業を伸ばす。B社が成長し、A社は差をつけられる。どこで差が生まれたかというと、現金を持っているかどうかである。
財務指標では、最も肝心な「倒産リスク」がわからない
資金繰り経営は難しくない。手元の現金がいくらあるか、そこだけに注目していれば良いからである。財務指標が経営で重要とよく言われるが、実はあまりアテにならない。なぜならいくら深く分析しても倒産リスクは分からないから。
例えば、一般論として、貸借対照表では次の3点が重要といわれている。
1つは、債務の償還年数。これは、有利子負債を何年で完済できるかを示すもの。銀行などの金融機関の評価としては、10年以内であれば優良企業。
【債務償還年数の計算式】
債務償還年数=借入金の残高÷(税引後利益+減価償却費)
2つ目は、自己資本比率。これは、貸借対照表の右側である負債と純資産の合計額に対して、純資産がどれくらいの割合かを示すもの。銀行などの金融機関の評価では、40%あれば優良企業。倒産リスクが少なく、お金を「貸したい会社」になる。
【自己資本比率の計算式】
自己資本比率=純資産÷(負債+純資産)×100
3つ目は、流動比率。これは、会社の短期的な支払能力を示すもの。支払能力が高いほど資金繰りに困る可能性が小さくなるため、銀行などの金融機関の評価では、この比率が200%以上あれば支払能力があるとみなされる。
【流動比率の計算式】
流動比率=流動資産÷流動負債 ×100
この3点を見ると、財務状態が優良かどうか(金融機関目線の評価において優良かどうか)が分かる。
しかし、倒産リスクは分からない。仮にこれらの財務指標が優良企業でも現金がなければ倒産するから。
例えば、買掛金が3億円あり、売掛金が1億円、現金が1億円だったらどうなるか。来月、3億円払わなければならないが、売掛金や現金を足しても1億円足りない。資金が足りずに倒産する可能性が高い。
つまり財務指標は逆に誤った判断を招くリスクがある。突き詰めていえば、倒産リスクを見るなら、指標などどうでもいい。貸借対照表の左上の現金の科目を見て、いくら持っているか確認する。足りなければ借りる。将来的な資金ショートのリスクに備えて、資産を現金化するといった戦略も立てられるだろう。
財務指標は「融資を受けやすくする」ための材料
財務指標が無意味とは言わない。しかし、指標の分析から分かることは限られる。経営で最も肝心な倒産リスクが分からない。
財務指標を見て「この会社は安全」とか「指標がイマイチ」などと言って指標で経営分析をしている人は、資金繰りが分かってない。資金繰りの素人であり、資金繰り経営の素人と言ってもいいだろう。
実は税理士でも、このタイプはいる。
「債務の償還年数を短くするために、負債を少なくしましょう」
「負債を減らして自己資本率を高めましょう」
そんなアドバイスをする税理士もいる。そのアドバイスを素直に聞き入れてしまうと、手持ちの現金が減って、倒産する。
では、指標をどう活用するか。
財務指標は会社の成績表のようなもので、指標が良ければ銀行などの金融機関の評価が高くなる。融資を受けやすくなり、現金が用意できる。そのための材料として使う。
いまの指標が良いなら、その指標を銀行などの金融機関に見せて現金を調達する。それが正しい指標の使い方であり、正しい資金繰り経営の考え方。
指標が良いから倒産しないのではない。指標が良い会社は借金できる。現金が増やせる。だから倒産しない。
借りられるときに借りられるだけ借りる。これが資金繰り経営の究極のアドバイスだ!
菅原 由一
SMGグループ CEO
SMG菅原経営株式会社 代表取締役
SMG税理士事務所 代表税理士
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